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「800字文学館」 体験記・紀行文

手前味噌

松谷 隆

『広辞苑』で手前味噌を引くと「自分の事を誇ること」「自慢」とある。その由来は、かつて、多くの家庭が味噌を作り、その味を自慢しあったことから、「味噌」が使われるようになったという。

 昨年2月、味噌作りに挑戦した。近所のケアプラザが開いた「男の交流会―味噌作り」で、その案内には大豆と米麹を含む参加費は1500円、天然塩500グラム、重し用の塩1キロ、3キロ用の容器、バンダナおよびエプロンを持参とある。面白そうだと申し込んだ。

 当日、参加者は11名。指導員2名の指示で味噌作りを始めた。と言っても、大豆の準備作業は指導員たちが前日に終えており、最初は大豆蒸し。圧力鍋2台では一度に4人分しか蒸せず、時間がかかる。その間に、米麹に天然塩をまぜ、大豆を発酵させる塩切り麹を作った。これがないと味噌ができない。
 自分の順番は最後になった。潰し始めたら、指導員から「もっと蒸さないと粒が残る」と言われたが、「粒のある田舎味噌でいい」と続行した。
 潰した大豆が冷えてから、塩切り麹とゆで汁をよく混ぜる。きれいにした容器にテニスボール大の玉にした大豆を勢いよく次々投げ込む。これは空気抜きのためだ。最後に表面をならし、カバーをして重しの塩をのせ、容器を密封しておしまい。
 指導員が「封を切るのは年が明けてから。味噌の熟成期間は気が遠くなる位長いよ」と締めた。

 持ち帰った3キロ入りの容器を流し台の下に入れたまま、1年が過ぎた。「料理に使おう」と家内に言っても、「買ったのを使ってから」とお預け。3月になり、やっと容器の封を切った。まずは、味噌汁。一口で「いける!」というと、家内も「上々」とご機嫌だ。鯖味噌煮やトン汁もOK。調子に乗りお隣2軒に「手づくりですが」と差し上げた数日後、口を揃えて「美味しかった」との反応にホットした。

 あっ、いけねぇ。これが手前味噌だ。しかし容器代を含め3000円位で、あと2カ月以上も楽しめるのは望外である。

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