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「800字文学館」 日常生活雑感

相模湾の鰤

大越 浩平

 城ヶ島から伊豆半島・川奈を結ぶ線の内側が相模湾だ。初夏に湾岸をドライブするのはとても気持ちがいい。江ノ島と房総半島を望み、丹沢山塊の先に富士山が現れ、真鶴半島から伊豆の山々が遠望できるパノラマが楽しめる。
 高台から海を見渡すと、定置網が見える。どんな魚が入るのだろう。

 定置網の研究を神奈川県水産技術センター相模湾試験場で行なっていると知って出かけた。東海道線早川駅下車、小田原漁港の隣だ。そこには、相模湾に初めて設置された定置網の模型から最新のハイテク定置網まで、十数種の模型が展示してある。

 別室の巨大水槽には実物の百分の一の定置網を入れ、海流による網の変化や、網を固定する錨綱の強度等を研究して定置網の改善策を提案し、台風等による破損の被害を防いでいる。相模湾には二十以上の定置網が設置されている。

 模型の後ろの壁に、大勢の漁師が定置網を引き上げ、巨大な魚が競りあがり、一網で二万八千匹水揚げしている写真がある。昭和三十年の事だ。その魚が一匹約十キロのブリと知って驚いた。

 相模湾は昭和四十年まで、年間六十万匹獲れた最高級天然ブリの豊な漁場だったのだ。その後、大漁の回遊はほとんど無いという。今、定置網で獲れている魚は、アジ、サバ、イワシが主だ。

 不漁の原因は解明されていないが、相模湾の環境の変化は明白だ。相模川にダムが出来、川から海に注ぐ水量が大きく減少した。
 そのため川からの森の栄養分と砂の供給が激減し、二宮の百メートルの砂浜が消滅、二〇〇七年には西湘バイパスの土台も侵食され崩落した。しかし、海水温や海流の変化はあまり無いという。

 漁業者はブリが戻ってくる事を切に願っている。
 たまに、湾岸に道路のない静かな暗い漁場で、イナダ(ブリの幼魚)やブリが揚がるという。
 大型の回遊魚は神経質と言われろ。街灯や自動車のライトも影響しているのか。

 相模湾の天然鰤を食べてみたいものだ。

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