政治・経済・社会
手拍子
将棋は盤面と持ち駒が常に明らかな勝負ごとである。プロはプロなり、素人は素人なりに次の一手を楽しむことができる。
ある局面だけ見ると、プロの将棋も素人の将棋もあまり変わりない。しかし、プロ棋士の読みは、普通の人の思いを遙かに超えて奥深い。局面は同じでも、内容はプロと素人では天と地の差がある。
マスメディアの発達と情報公開の時代背景で、多くの人にあらゆるデータや情報が提供されるようになった。この流れで「一寸先は闇」と言われていた政治の世界も、国民の目に隠されていたことがいろいろ明らかになり、将来予測ができるようになってきた。政治の世界も将棋のように、誰の目にも見えるところで行なわれ、隠し事ができないようになった。
今回、鳩山首相が普天間基地の移設問題で行き詰まり退任した。退陣表明で、無念さを滲ませたが、この問題での首相の真意は多くの国民に伝わらなかった。
米国と自民党政権がやっと道筋をつけた辺野古移転案を白紙に戻し、なぜ沖縄県民から裏切り行為と言われるような目標を設定したのか。
このような歴史的問題の解決は、現状から目標までの諸課題を段階的に解決することに懸かっている。就任直後の会見から、首相がこのように認識していたことは十分に窺えた。しかし、突如「来年五月末までに沖縄県外の新たな移設先で日米関係者の合意を得る」と大見得をきった。
独立国としてあるべき日本の理想を求め、周りから宇宙人と評されていた政治家に絶妙手がひらめいたのかなと思った。
プロ棋士がやっと優勢な局面を迎えた局面で、入念に読んでいた手を指さずに、別の手を手拍子で指して負けることがある。
昨年八月の衆議院選挙で予想外の大勝で、安定政権を手にし、これまで描いてきた夢実現に向かって歩みだした首相は、理想と現実を読み違え、手拍子で指してしまったのかもしれない。
聖書は「るつぼによって銀をためし、炉によって金をためす。人はその称賛によってためされる」と言っている。