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「800字文学館」 日常生活雑感

恩師、良き友

新井 良侑

 先日、親しかった友からの突然の誘いで、高校の同窓会に卒業後初めて参加した。実に半世紀ぶりの学友たちとの再会であった。
 名札と昔の面影がなかなか結びつかない。ぎこちない会話を交わしている内に、当時の先生の思い出話になり、会話もだんだんと気の置けないものになっていった。それぞれの顔とどんな生徒であったか、またいろいろなことがよみがえり、気詰まりだった空間もだんだんと和めるものとなっていった。

 「いつも青白い顔をしていた、勉強家の社会の先生はどうしているかな。」
 「『青タン』な。いつも真っ赤になって怒る、負けず嫌いの体育教師の『赤タン』。いつも眠そうな顔をしていた、柔道部顧問の『夜明け前』もいたな。」
 それぞれが印象に残っている先生を話題にしたが、非常にユニークな先生が多かったことに今更ながら気がつかされた。

 授業中にビンタを張った、生物の先生。若い女性のスカートの丈と数学の解答は短ければ短いほどいいと言った、代数の先生。分からないときはきれいに書くんだよと言った英語の先生。最後の授業の終わりに、「明日は東京に出て行くからりゃ、何が何でも勝てねばならぬ」と王将の一節を教壇の上で熱唱したライオンという強面の美術の先生。
 「今年、大学生になる人もいるし、浪人する人もいるだろう。しかし、入試に合格したことが必ず良かったということでなく、不合格で良かったということも多々ある。人生は長く、いろいろなことがある。常に精進することを忘れるな」と、全員を励まし送り出した三年時の担任。
 最初の英語の授業、予習をしていないという理由で半時間も立たせた早稲田の英文出の先生。安保デモに熱心に通っていた先生の顔は、今でも忘れられない。

 近頃「友人の死は、自分の人生の一部を失うことだ」という言葉をしばしば耳にするようになったが、同窓生は自分の人生の一部であることを痛切に認識させられた一時であった。
 「世には友らしい見せかけの友がある。しかし、兄弟より頼もしい友もある」(箴言一八篇二四節)

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