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「800字文学館」 日常生活雑感

「踊らな損々・・・・・・」

平尾 富男

 毎年8月12日から4日間に亘って開催される「阿波踊り」には、忘れ得ない青春の思い出が詰まっている。
 400年の歴史を持つ開放的な南国の夏祭りは、近年では日本全国で大会が催されるほど有名になっているから、この時期に徳島市内に宿泊することはほとんど不可能に近い。

 四国と言えば「讃岐男に阿波女」という言葉とは別に、坂本竜馬に代表される酒にも喧嘩にも強い豪放磊落な「土佐男」が幅を利す。一方で、情熱的で一途な気性を心の内に秘めながらも、その女らしい優しさで男に尽くす「阿波女」を忘れることは出来ない。特に若い短期滞在者にはそんな徳島女性の魅力に抗うことは困難だ。(東京生まれ東京育ちの家内には内緒だが、今更ながら一抹の未練が残る)

 「女踊り」の形にもそれがよく現れている。男は半天を着て、身を低くして表情豊かにおどけて踊るが、女性の踊りは、「夜目遠目傘の内」と言われるように網笠を深く被り、半襦袢に裾除け、手甲を付けて黒繻子の半幅帯を結ぶ。草履ではなく下駄を履き、男踊りとは対照的に上品で、艶っぽい。

 踊りのグループの単位を「連(れん)」といって、先頭に連名を書いた巨大な提灯を掲げ、着用する浴衣などにも名前を入れる。それぞれの連が三味線、太鼓、鉦(かね)、横笛などの伴奏者たちのリズムにのって練り歩く。
 「えらいやっちゃ、えらいやっちゃ、ヨイヨイヨイヨイ、踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らな損々……」。実際、沢山の連が連日夜遅くまで市内を巡るのを、端で見ているだけでは詰まらない。筆者にも、地元の連に参加して大太鼓をお腹に載せてドドンガドンと叩いた経験がある。

 強烈な二拍子のリズムはジャズのそれに似ていて、「後打ち」の二拍子目にアクセントがある。自然に身体が上下に揺れてしまう感覚は、見るだけでなく参加することを誘う。最近では外国人の飛び入りも増えている。

 踊りに加わらないと損をしたような気分になるから不思議だ。

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