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「800字文学館」 芸術・芸能・音楽

写真を創るのは誰

野瀬 隆平

 フィルムで白黒の写真を撮っていた時代には、プロは当然のことハイ・アマチュアも、フィルムの現像から引き伸ばしまで、作品の完成にいたるすべての作業を自分で行っていた。印画紙を選び、露光の時間を考えてイメージにあったプリントに仕上げる。こうして出来た写真は、その写真家の作品と呼ぶにふさわしいものであった。

 しかし、写真の主流がカラー・フィルムになってからは、事情は大きく変わった。プロの写真家ですら、撮影したあとの現像から最終プリントまでを、自分で行う人はほとんど無く、ラボに作業を委託する。さすがにプロは、気に入ったラボを選び、ラボにいる特定の技師を指名して、写真の仕上がりについても細かく注文を付ける。けれど作業をするのは、あくまでも写真を撮った人とは別の人間だ。従って、出来あがった写真は、撮影した写真家一人の作品ではなく、厳密にいえばラボで作業を行った技師との合作なのである。

 これに対してデジタル写真の場合は、パソコンを使って最終仕上げまで、すべて本人が行える。明るさ、コントラストの強さ、色の鮮やかさや調子を整え、場合によっては、従来の追い焼き、覆い焼きなどの技法を駆使して、自分のイメージに合ったプリントに仕上げる。このような過程をへて創られた入魂の一枚の写真こそ、まさに個人の作品と呼ぶのにふさわしい。

 ただし、懸念されることが一つある。デジタル技術を使うと加工が容易なので手を加えすぎて、写真本来の範疇を逸脱してしまう恐れがある。画面に映っている電信柱や電線を消すことなど簡単に出来る。絵画においては、画家は最初からその様な邪魔なものは無視して描かないから、その意味では、デジタル処理による写真は、少なくとも形の上では、絵画に近づいたと言える。

 写真を趣味としている人間にとって、これまで写真屋に頼んでいた撮影後の作業を自分できるようになり、それだけ楽しみの範囲が広がったことだけは確かである。

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