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「800字文学館」 日常生活雑感

花火

稲宮 健一

 花火は夏の風物詩である。暑さを花火で吹き飛ばせと、盛夏に至るところで催されるが、その混雑を思うと足が遠のく。とは言え、名に押され、隅田川の花火に行ったことがある。浅草駅から人の流れに埋もれ、墨田公園沿いで見物した。残念ながら、見えるのは桜並木の枝に遮られた花火の一部で、あとは音が響くだけ、やっぱり屋形船か、料亭の座敷で見るものなのかな。

 新潟に住んでいた頃、長岡の花火を見物した。信濃川に架かる、大手大橋、長生橋のそばに陣取った。この花火は豪華絢爛、大きな花火が天を衝いて打ち上がると、頭を後ろにして天空を見上げ、視界一杯に広がる極彩色の光の軌跡に身体全体が奪われるようなとき、「ドカーン」と腹の底に響く音が伝わってくる。大型の一発があったり、生け花の裾を飾る花のように河原に帯のように横に広がる数多くの連発など、夕方から夜半まで全く吸い込まれるようだった。

 この花火は山本五十六の出身地長岡が空襲で徹底的に痛めつけられたのを跳ね返し、元気を取り戻すため始まったと聞く。

 あまりの見事さに、横浜に住んでからも、日帰りで行ったことがある。その際はJRの旅企画で行ったので、前回より良い場所で、長岡の花火を堪能した。

 今年は小千谷の片貝花火を見物した。何しろ、世界一大きい四尺玉の打上げとの触れ込みで、JRの桟敷席を確保し出かけた。ここの花火は地元浅原神社への奉納花火とのことで、奉納主旨と奉納者の氏名をアナウンスし、一発、一発丁寧に打ち上げられた。JRの桟敷席は打ち上げ場から逆勾配で配置されているので、頭上高く打ち上がる花火の視界に周りの人は邪魔にはならないが、打ち上げ場は前の人の姿で見えない配置に成っている。確かに世界一を誇る一発は天空全体に広がる見応えが有ったが、広々とした河原で、前方に視界を妨げるものがなく、連続で種類の違った花火を組み合わせ、時を明けないで打ち続ける長岡に軍配を上げたい。

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