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「800字文学館」 日常生活雑感

夏風邪余話

濱田 優(ゆたか)

 九月上旬のまだ残暑が厳しいときに風邪をひいた。
 いつもは初冬の木枯しが吹くころ鼻風邪にかかるのに、今年は様相が異なり、喉が痛んで咳が止まらない。

 私は寒気がして風邪の予感をするとパブロンを飲む。もう二昔も前、三田佳子とゴクミ(後藤久美子)が母娘を演じたCM、「効いたよね、早めのパブロン」がテレビに流れたとき以来だ(単純!)。この二人、よく似ていて実の母娘みたい。あるとき茶の間でこのCMを見ていて、「お父さん役で出るかな」と冗談で呟いたら、当時高校生の娘があきれ顔をして部屋を出て行った。

 それはともかく、パブロンで治まらないときは掛かりつけの鈴木医院に行く。先生に症状を訴えると、たちどころに数種類の薬を見繕ってくれ、いつもは三日、長引いても五日で治る。なのに、今度はそうはいかなかった。再度鈴木先生に診てもらい、短期使用の限定つきでステロイド剤を出してもらった。これで強い咳は鎮まったものの、喉のイガイガは頑固で抜けない。

 数日後、大学時代の友だち四人と久し振りに会う飲み会があった。喉風邪は完治したとはいえないけれど、長引いた自宅療養で溜まったストレスを発散したい思いもあり、出掛けることにした。
 この仲間と会うと、出だしは穏やかに近況を伝え合うが、世間話から共通の関心事に話題が絞られるや、いつも昔にもどって議論が熱くなる。因みにこの日は政府・日銀の円高無策が槍玉にあがった。

 お定まり居酒屋に集まったメンバーは、とりあえずのビールで喉を潤しウォームアップをしたあと、それぞれの好みの酒にチェンジする。冷酒や焼酎ロックの注文が多い中、私は熱燗を希望した。店内の冷房が強く寒気を覚えたからだ。そこでゴホンと咳がでた。
 他の人の飲み物はすぐ出てきたのに、私のは手間が掛かるせいか遅い。メートルを上げる仲間に遅れをとっては、と焦る。と、その時、「お待たせしました!」元気のいい声とともに、私の前に五本の徳利が並べられた。

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