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「800字文学館」 スポーツ

ゴルフ自慢

田谷 英浩

 スコアではない。ハンデイキャップでもない。四十七都道府県のすべてでプレーしたことを言いたいのだ。ただしこうした自慢話は驚きや共感を示してくれる相手があってこそ成り立つもので、この話にはゴルフ仲間を含め、誰も殆ど関心を示さない。
 前の晩に泊まった温泉宿での飲めや歌えで、地方経済の活性化にはいくらか役に立ったとは思っている。しかしハードボイルド作家小鷹信光さんに、この話をしても「俺はあと二州やれば全米制覇だ」と言って、まったく相手にされなかった。上には上がいるものだ。
 ところで誰にも褒められない、感心もされない、こんなつまらないことをやったのは無論、地方経済の活性化を考えたためではない。小さい会社ながら現役後半の守備範囲は全国区であった。当然誘ったり、誘われたりしている内に、気が付くとプレーした事の無い県はあと五県だけになっていた。
 そこで未プレー県を潰して行くことになるのだが、その頃になると、バブル経済も終っていて、その目的だけで山陰や四国でプレーすることにはかなりの個人的な経済負担もかかることになった。しかし幸いにもゴルフなら何処へでも付き合うという仲間が数人いてくれて、最後は徳島県で全県制覇を果たした。

 ところで旧国鉄時代、全線の乗車完了の時には非常な達成感を味わったものだが、ゴルフの場合は自分でも驚くほど感激がなかった。
 なぜだろうか。青空の下、白球を追いながらスコアを競うというゴルフ本来の目的を外れて、全県でプレーすることを目標にしたこと自体が邪道だったのかもしれない。
 シングル級の友人は言う。「ゴルフ場は季節、天候、テイグラウンドやピンの位置によって同じゴルフ場でも、まったく表情を変えるし、難易度も異なる。一度はやってみたいゴルフ場はあっても、全国でやる意味はない」と。
 しかし最近になって全県達成に協力してくれた友人の一人から、残るは富山と和歌山になった。付き合ってくれと言ってきた。来春にはこの人とプレーせざるをえない。

(2010.11.11)

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