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「800字文学館」 日常生活雑感

異常気象の粋な恵み

大越 浩平

 十月初め、白馬山麓に住む、知人T氏から今年は茸が異常に出ているので期待が出来る。山小屋で茸の会を開こうと、お誘いがきた。
 春の桜と山菜、秋の紅葉と茸狩りは浮世の義理を捨てても出かける最優先行事、聞きつけた友人も含めて七名が集まる。
 早速T氏の森に入り茸狩りを始める。名も知れぬ茸がそこここに顔を出している、ほとんど食せないが。T氏はぶっとい松茸を五本ゲット、それに珍しい香茸と数種類の茸が大ざるに二杯、私も判別できる網茸を加えた。
 T氏は持ち山の山中に自力で十畳ほどの小屋を建てた。飲料水は沢の水、光はオイルランタン、燃料は小型LPGボンベ、トイレは室外の小さなポットン小屋。寝袋も装備され宿泊も出来る立派な山小屋だ。
 早速調理に入る。松茸は水にさらさずゴミや枯葉、石突きを取り手で裂き土鍋で松茸ご飯にする。米はT氏自慢の自家製米。他の茸は塩水でへばりついた枯葉や虫を除き、骨付き鶏肉のぶつ切り、里芋、ねぎ、ごぼう、醤油、酒、出し昆布等で煮る。
 小屋は松茸と茸汁の香りに包まれ食欲をそそる。差し入れの馬刺しを切り、宴の始まり・乾杯だ。酒は、五一ワイン白の一升壜、地酒の雪洞仕込み純米酒等だ。
 まず茸汁を食す。トロミの付いた汁の中から、茸の様々な香りと食感が混然一体、口中に広がる。茸汁、ワイン、馬刺し、酒。そのうち、醤油の焦げる香りが漂ってきた。松茸ご飯の完成だ。ほぐせば松茸の香りは小屋中を駆け巡り、国産松茸の実力を思い知る。夢中で味、香り、食感、そしてお焦げを楽しむ。仕上げは焼き松茸のスダチ塩、ああ満足口福。

 白馬は今夏も酷暑で、その上降雨量が少なかったが、十月初旬に雨がどっと降り、すぐに寒気がきた。例年に無い気候の変化に、菌類が一斉に目覚めたのか。松茸はいつもの四倍以上出たと地元の人は言う。(四十数年振りとか)
 異常気象も時には粋な恵みを与えてくれる。

(二十二年十一月二十九日)

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