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「800字文学館」 日常生活雑感

僕のコダクローム

志村 良知

 コダックのスライド用カラーフィルムであるコダクロームの生産販売が今年一杯で終了するそうである。コダクロームといえば、イーストマン・コダック社のというより銀塩フィルムそのもののフラッグ・シップのような存在で、この生産販売終了はまさに銀塩フィルム時代の終焉を告げる大ニュースであろう。

 昔、少し写真を撮っていた頃、背伸びしてコダクロームを使ってみた事がある。ASA64(ISOじゃピンとこない)と低感度であり、非常に硬調な独特の表現になるので使いこなすところまでは到底行かなかったが、紅葉の写真などではスライドを映した瞬間、観客(と言っても家族であるが)から嘆声が漏れたりした。ポール・サイモンの『僕のコダクローム』でも、「輝く色、夏の緑、全てが上天気の太陽の下の景色のように映る」、と歌われている。

 コダクロームは写真化学的に特徴のある現像法を採っており、コダックの現像所でなければ現像できない代わりに退色に強いと言われていた。このため、当時の写真雑誌に、結婚式の写真を頼まれたら、カメラの一台では花嫁をコダクロームで撮っておこう、と言うような記事が載った。これを見て自分の結婚式でもコダクロームを詰めたカメラを用意してカメラマンを頼んだ同僚に託した。

 旅行先のドイツの田舎駅のキオスクでコダクロームを買った事がある。えっと思うような値段であったが、ドイツ語でフィルムの価格についての議論はできないので、ここではコダクロームは高いのだろうと云うことにしておいた。
 帰国してそのフィルムを現像に出した写真屋で、「フィルムは現像料込だったので、うちでは無料です」と一銭も払わずに受け取れた。つまりドイツで現像料込として買ったので、日本の写真屋では現像料は要らないというのである。フィルムのどこかに現像料金済かどうかのフラグが付いていて、それを万国共通で運用していたのである。これには流石コダックと感心させられた。

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