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「800字文学館」 政治・経済・社会

ブループラネット賞受賞講演(その2)

稲宮 健一

 前回に引き続き、ジェームス・ハンセン博士の地球温暖化防止順守事項の根拠に関して記す。

 過去に地球が遭遇した温暖と寒冷の時期の気象を探求した。過去の気象は深海や南極を地中深く掘削して取得した当時の地質を基に、気温や、そこに含まれている気泡から検出した大気の成分などから判定する。深海の地質からみて、六千万年前は大陸移動期で、島インドが大陸に当たり、ヒマラヤやチベット高原を押し上げて火山活動を激くさせ、高濃度の二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)の排出が多なり、アラスカにワニが住む程海水は高温であった。それから徐々に冷却して現在に至っている。

 もう一つ、南極の地質より四十万年以降の気象データが検出でき、この間、十万年の周期で、マイナス八度Cの寒冷と四度Cの温暖を繰り返している。原因は太陽と他の惑星からの天文条件の影響による。その間のCO2、CH4の濃度のデータが取得されていて、温暖化ガスと地球温暖化の相関関係が明確に示されている。二万年前の最後の氷河期ではニューヨークは一㎞の氷に閉ざされていた。 この二種類の例には、人起源の大気成分を含まない。この過去の実例から判断して、温暖化ガスが多く含まれた時期は、太陽から地球への熱放射が、地球から宇宙空間への熱放射より増え、熱は海水や海氷に蓄積されて温暖な地球をもたらした。

 そして、人起源が発生した産業革命以降、現在までの温暖化ガスの濃度は短期間に一様に増加している。CO2のみに注目すると、二〇〇年前が二八〇PPMであった値が、現在では三八九PPMに上昇している。

 人起源の大気への排出は、温暖化ガスと、冷却をもたらす産業の粉塵があり、他の自然界からの寄与もある。総合的に考えて、温暖化にはCO2の寄与が大きい。

 従って、前回述べたCO2の濃度三五〇PPMを維持するためには、将来その排出の最大原因となる、埋蔵量が最大の石炭に注目して順守事項を設定した。

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