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「800字文学館」 日常生活雑感

久方ぶりの美酒

古川 さちお

(二〇一〇年十一月九日記)

 長らく味を忘れていた美酒にめぐり会った。香りといい、舌ざわりといい、懐かしい限り。思わず晩酌の定量を過ぎるまで飲んでしまう。鹿児島日置の小正酒造産の芋焼酎だ。箱詰めのまま数ヶ月を経た今夕、取り出したお宝である。

 退化しつつある脳みそをしばし鞭打って、忘れていた入手経路を思い出す。春の観桜会で、小学同期・T女史の話に出た銘酒『竹山源酔』を、数日後に頂戴したものだ。その後の病気などのために味わうのをすっかり忘れていたのを今夕賞味したのである。
 おそらく、これも小学同級の畏友・I氏が先日大学同窓会で出会ったという銘焼酎『七窪』と同格のものであろう。有名な『森伊蔵』よりも美味しいと言うのだから。
 うまいサケ(焼酎)というものは、器に注ぎお湯を加える段階で、懐かしの甘い香りが鼻の奥までズーンと来る。口に入り、のど元を通過するときには、その美味に思わず胸がふるえるほどの快感を覚えるのだ。サケの味を知らない向きには教えてやりたいと思うくらい。

 筆者の晩酌は、このところ芋焼酎が多い。ほかのサケが嫌いなわけではない。むしろ赤ワイン、日本酒、スコッチ等々、手元にあれば少量ずつながら飽きることなく堪のうする。就中、ブルゴーニュの赤ワインで、好物のMoulin a ventという銘柄が手に入ったら大へんだ。その日は夕食の料理まで気を配りながら、心行くまで飲み続けるのだ。筆者はいわゆる飲み助という奴なのだろう。
 しかし若い頃から度を過ごすことなく、しかも水などで薄めた弱いサケを好むようになったので、サケで健康を害することはない。好きなサケを飲めるうちは健康だなどと、勝手に決め込んでいるようなものかも知れない。

 ともあれ、古来「酒は百薬の長」という飲み助向けのコトワザもあることだ。あくことなくサケを嗜み、生きている限りは元気でいることにしようではないか。
 こよなく尊敬するバッカスに乾杯!

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