作品の閲覧

「800字文学館」 体験記・紀行文

運河の話

野瀬 隆平

 続けて二つの運河を見た。日本の運河である。といっても、現在は運河としては使われていない。
 一つは、友人と石巻近辺を見て歩いた時に訪ねた北上運河。石巻の市内を流れる北上川から仙台に近い野蒜に至る全長12.8kmの運河で、明治15年に完成したものである。今日のように、大きくて頑丈な船がなく立派な防波堤を造る技術もない時代には、少しでも天候が荒れると、海に面しているからといって、どこにでも船が着けられたわけではない。そこで、船が安全に出入りできる港から、川と運河を利用して大きな消費地につなぐ水路が必要だったのである。北上川から運河に入るところには、水位を調整する「閘門」が設けられ今でも残っている。これは日本で最初の近代的な閘門である。
 もう一つの運河は、利根川と江戸川を結ぶ全長8kmの利根運河。二つの川は関宿のあたりで合流しているのだが、銚子から東京に向かうにはかなり距離的に損をする上に、江戸川が浅く大きな船が航行するには困難が伴った。そこで、二つの川を下流でつないだのである。その結果、3日かかっていたところを1日に短縮することができた。完成したのは明治23年である。運河の両岸には桜の木が植えられ、当時は大いに賑わったという。今では、東武野田線に「運河」という駅があり簡単に行くことができる。先日、家人と散策したあと当時からある料亭「新川」で食事をした。近くには、運河の建設に貢献したオランダの技師ムルデルの碑が建てられている。

 運河とオランダ人で思い出したのが、数年前に経験したアムステルダムからウイーンに至る川舟の旅である。ライン川からマイン川に入り、さらにドナウ川へと進むのだが、マイン川とドナウ川は離れており、しかも間に高さ400mの丘陵地帯がある。それを全長170kmもの運河でつなぐことにより、黒海まで舟に乗ったまま行くことができるのだ。正に、多くの閘門を設けた運河があって、はじめて可能となる舟の旅である。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧