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「800字文学館」 日常生活雑感

舞岡公園

稲宮 健一

 居を構えて三十一年になる。この住宅街は横浜南部の戸塚と上大岡の中程の小高い丘陵地帯に広がっていて、丘の高い所に霊験あらたかな日限山地蔵尊が鎮座している。かつて一面が畠であった所を高度成長期に京浜急行が宅地開発した分譲地である。

 住み始めたころ、息子達は「ふるさと」の歌のように、近くに点在する耕作地の付近で、泥んこになって遊んでいた。現役の頃は家にたどり着くのが遅く、周囲のことはあまり気にしなかったが、息子達が独立し、二人暮らしになった退職後よくこのあたりを散策するようになった。

 住宅地に隣接する開発を免れた原野だった市街化調整区域が、市の舞岡公園として整備され、横浜南部の市民の憩いの場として親しまれている。我が家から徒歩五分程で公園に達して、速足のウオーキングで通り抜けると二十分程かかる広さである。五キロのウオーキング経路の一部として丁度具合の良い道である。公園は林に囲まれ、林から下って行くと谷戸になり、小川が流れていて、その両側は田んぼや、農地になっている。真中あたりには移設されたかやぶき屋根の古民家があり、農作業のできる庭が付いていて、さらに小さな広場へと繋がっている。そこにいると、都会の騒音はなく、野鳥のさえずりが耳に入る。

 公園を歩いていくとシニアの人々が、道の両側に大きな望遠レンズを付けたカメラをずらりと並べて、バードウオッチングと撮影を楽しみながら、いつも賑わっている。二十種類ぐらいの野鳥が観測できるし、時々白鷺や、鴨が田んぼの近くの湿地に来ている。

 夏は川辺ではホタル、秋はかかしの出来栄え競争や、稲刈りをして、取れたお米で近くの子供たちが餅つきするのが恒例になっている。

 少し前まで、林一帯が黄褐色の秋の色で飾られていたのが、今は落葉して、細かい枝の織りなす間から、初冬の淡い木洩れ日が差し込んでいる。お正月を過ぎると、ここも時々雪景色に彩られ冬景色が楽しめるかな。

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