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「800字文学館」 日常生活雑感

還暦ラグビー・プレーヤー

平尾 富男

 三年前に定年を迎え、若い外国人に日本語を教える学校で教鞭をとるようになった友人から賀状が届いた。友人は昨年四月から日本での就職を希望する海外からの学生を対象にしたビジネス日本語クラスを立ち上げている。日本は勿論、十五年以上のパリ駐在、四年間のニューヨーク駐在のビジネス体験が大いに役立っているようだ。

 賀状で、授業と教案作成に追われる一年だったと述懐する一方で、六十歳以上のチーム同士の試合に初めて出場して、還暦プレーヤーたちの気合と激しい当りに嬉しい驚きを感じたと書いてある。高校時代に初めて知ったラグビーの情熱を今も失ってはいないのだ。
 大学時代はもちろん会社に入ってからも有志を募ってラグビーを楽しむ。一九八〇年代の後半に赴任したパリでは、日本人が誰一人いない地元の社会人ラグビー・チームの存在を知り、果敢にもその一つに入会し、元プロも混じるそのチームで大いに活躍した。

 その後日本に戻り、直ぐニューヨークに再転勤になると、日本企業の駐在員たちで作っていたラグビー・チームに所属する。赴任した当時は、チームの人数が少な過ぎて満足に試合が出来る状態ではない。そこでインターネットを通じ、広くニューヨーク在住の日本人に声を掛けると、十数名の日本人が応じてきた。
 彼らは数年滞在したら直ぐ日本に戻ってしまう大企業の駐在員たちではなく、様々な理由で日本を単身飛び出してきた若者たちがほとんど。その職業も、料理人、会計士、俳優、さすらいの研究者などと多様だった。
 既に五十歳半ばになっていた友人は最年長だったが、その運動能力は誰もが一目を置き、早速クラブの会長に祭り上げられる。結成二年後には、ニューヨーク近郊のクラブ間トーナメント一般の部で、体格の大きなアメリカ人チーム相手に準優勝を成し遂げるほどになった。

 還暦を過ぎたこの友人に会うたびに元気をもらえる。ラグビーこそやらないが、まだまだ我が道を楽しまねばと。

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