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「800字文学館」 体験記・紀行文

イタリアのトイレ事情

小寺 裕子

 何度イタリアに行っても腑に落ちないことがある。それは、世界で最もおしゃれな男女が外出先で使うトイレだ。

 地元の人で満席のレストランでも便座のないトイレは珍しくない。

 先日は、「きれいだから」と勧められて地下のトイレのドアを開けると、片側に手洗いがあり、向かいに男女兼用のトイレが二箇所ある。トイレには中が見えないようドアがあるが、膝下は丸見えである。日本の店でも男女兼用のトイレもあるが、その場合は手洗いも中にある密室である。私は見知らぬ男女が並んだトイレで用を足し、顔を合わせて同じ流しで手を洗うのには抵抗感がある。

 更に驚いたのは便座である。便座を下ろそうとすると押さえていない限り跳ね上がってしまう。なるほど、イタリア男は便座を上げたりしないのだ。今まで考えてもみなかったが、日本では便座を上げずに小用をする男はいないのではないだろうか。そう思えば日本の男のよいところも見えてくる。

 イタリア人男性に聞くと、便座がないのは酔っ払いなどが蹴飛ばしたりして壊してしまうからだと言う。それも随分と乱暴な話だなと思う。もう少し問い詰めると、外では不潔だから便座をさわりたくないと言う。

 これでは女性に対して失礼ではないか、と思っていると女性用のトイレなのに便座がない店もある。娘が通っていた高校はそもそも和式のトイレだったそうだ。だからイタリア女性はしゃがむことに抵抗はないと言う。たとえ便座があっても外出先では座らないと言う女性が多いので、便座のない店に苦情が来ることもないらしい。

 イタリア人の名誉のために言っておくが、彼らは自分たちの清潔感を誇りに思っている。自宅ともなるとトイレもピカピカに磨き、男性もビデを常用している。日本が誇るウォッシュレットもイタリア人に言わせると洗える部位も限られ、何か物足りないそうだ。清潔感の違いが身にしみたイタリア旅行であった。

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