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「800字文学館」 政治・経済・社会

え、日本に住めないんですか!

稲宮 健一

 1月31日付の日経朝刊によると、知識産業に属する大手のプラント・エンジニアリング会社が出資するタイ現地法人が日本国内で新卒採用するとの記事があった。採用条件は、理系の学生、職場は現地、待遇は現地並み、日本へ帰任はない。今、求人倍率が最悪で、就職できない新卒が大勢いることが背景だが、大いに考えさせる問題を含む。

 タイのGDPは日本の約1/20、一人当たりは約1/10、成長率は9.1%、(2009年ベース)典型的なアジアの途上国である。会社グループにとって、大幅な人件費の削減が可能であろう。しかし、これは現代版移民に等しくないか。

 現在までも、商社や、海外に支社を持つ企業は、外国に社員を派遣して、日本のビジネスのノウハウを生かしながら、現地社員と一緒に働いてきた。彼らが安心して働けるのは、待遇が日本の社員と同等と保証されているためだ。

 今後の急成長が期待できるアジア途上国は、社会インフラが未だ未整備なので、大規模な投資が期待できる地帯である。かつて、日本も基盤構築のため、明治期にあって、お雇外国人に、戦後は技術導入費に多額の出費を払ってきたのだ。今はそれを売れる立場になっている。この市場の国際競争は激しが、その中で、企業を成長させ、企業価値を高めて行くには、優れた人材を確保することに尽きる。単なる人件費の削減で目先の利益を追うべきではない。

 現在は選択と集中の時代と言われている。日本の強みを生かせない単にコスト競争のみの市場は選ぶべきではない。

 確かに、近隣の諸国が、安めの人件費を背景に、途上国の現地に深く入り込み、シェアを広げているが、そこを日本の産業の総合力で対抗して行かなければならない。もし、本人が今後の途上国の発展を考え、将来のため貴重なキャリアパスを現地で築きたいと思って応募してくるなら、企業はその人に対して、将来の明るい期待像を何らかの形で示すべきと考える。

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