作品の閲覧

「800字文学館」 体験記・紀行文

トルコの絨毯商

大月 和彦

 ツアーでイスタンブールへ行った時、現地ガイドに連れられて、旧市街の落ち着いた商店街にあるビルに入った。「イスタンブール・ハンドクラフト・センター」とある。内部は清潔で落ち着いた雰囲気。二階の教室風のホールのコの字型に並べられたいすに30人のツアー客はなんとなしに坐ってしまう。

 スーツに身を固め腹の出た50歳ぐらいの紳士が出てきて、流暢な日本語で仰々しく歓迎の言葉を述べる。お客様を最大級に接待するのがトルコの流儀です。お茶を出します、アップルティ―とチャイのどちらにするか、手を上げてください。アップルの方は? チャイの方は? 数えて部下に命ずる。
 やおら説明を始める。
 部屋の隅に置かれた小型の織り機を動かす女性を指しながら、絨毯の原料は生糸、ウール、棉であること、当店のものはすべて手織りであること、織り方が他の国と違ってタテ糸とヨコ糸を結び合わせ、1平方㎝に100個の結び目があるので、丈夫で見た目がいいことなど 滔々と商品のプレゼンを繰り広げる。
 やがて数人の男が大小の絨毯を運び込み床に広げる。紳士の口上が雄弁になる。○○村の製品で織りあげるのに18ヶ月かかり、色は草木染めであること。
 別の男がまた抱えてきて床に広げる。生糸そのものの色なので、光の方向によって色調が変わる、と縦横を替えて見せる。たしかにちょっとした光加減で色合い違って見える。
 ホウッと感嘆の声が出る。
 次々と持ち込んできて床に重ねて繰り広げる。セールストークがますます冴えてくる。値札を見ると縦横1mぐらいのが8500Lとある。高いのか。外へ出ようにも足もとまで広げられた高級?な絨毯を踏みつけそうで出られない。
 一時間後、定価より20%オフ、税金と送料は負担、持ち帰りのバッグをサービスするなどという。
 トークが終わり、絨毯が片付けられると,いかつい男たちが入ってきて付きまとう。逃げるように室外へ出る。

 ツアーのメンバーと数十万円の商談が2件成立したと、後で聞いた。

(11・2・9)

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧