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「800字文学館」 政治・経済・社会

オオカミにご用心!

濱田 優(ゆたか)

 最寄りの三軒茶屋駅で、改札階からホームに降りるエレベーターに乗ると、降り口で「ホームです」という案内が流れる。それが私には「ホームレス」と聞こえる。
 旧友が、ホームレスの自立支援センターで就労支援の仕事をしており、ときおりその話を聞くので自然関心が向かうのかもしれない。

 彼の話によると、最近は20代、30代の路上生活者が増えるとともに、大企業のエリート社員だった中高年が新たに加わる例が多いそうだ。彼らがセンターで立ち直り、職を得て社会復帰を果たしたときは、仕事にやりがいを感じるけれど、自立に失敗して逆戻りする人も結構いて心が痛む、という。
 ホームレスに堕ちる理由として、失業、倒産などの経済問題、職場や家庭の人間関係、酒やギャンブル依存とともに、“サラ金地獄”がよく挙げられる。

 ところで、この地獄で苦しむ人たちが払い過ぎた利息〝過払い金〟を取り戻すという、一見耳寄りの広告が、テレビ、新聞、電車の中吊りに溢れている。広告主は弁護士(司法書士)事務所。今や過払い金回収は、膨大な宣伝費を投じても儲かる美味しいビジネスらしい。

 これで債務者も助かるならまだしも、依頼者の苦情が相次ぎ、危機感を感じた日弁連が、ついに弁護士報酬の上限(取り戻した金額の25パーセントなど)を定めた(毎日新聞2月10日朝刊)。苦情の内容は、「回収した過払い金をすべて報酬として取られた」、「弁護士は顔を出さず、事務職員が終始対応」など。サラ金、ヤミ金が前門のトラとすれば、悪徳弁護士は羊の皮を被った後門のオオカミだ。回収が事務員任せでも用が足りるなら、規程の報酬はまだ高い。

 最近、テレビでクワイ川マーチに乗せて「借金、問題は○○○」と歌うCMを頻繁に流している法律事務所がある。「借金問題は、○○○」とPRしているつもりだろうが、そうは聞こえず、まるでその法律事務所が問題と伝えているみたいだ。図らずも、羊の皮の下からオオカミの足が見えた、と思うのは考え過ぎか。

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