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「800字文学館」 日常生活雑感

インスタント食品の効用

稲宮 健一

 頬を緩ませて炊き出しを食べている姿を見ると、早く普通の生活に戻って欲しいと願って止まない。これは我々の明日の姿かも知れない。いつ何どき、非常事態に遭遇するかは誰にも分からない。それ故、非常時用に食料備蓄は必須だ。この時手軽に役立つのが、日本の世界的発明品、即席ラーメンがある。今や、日本のみならず、世界中に多種多様の即席麺が広まっている。その元祖は、1958年に安藤百福翁の発明したチキンラーメンである。
 インターネットで尋ねると、色々な事業を手がけていた翁は、理事長をしていた信用組合が倒産して、無一文になった。その時、自宅でかねて思いがあった即席ラーメンを研究し、商品化に成功している。池田市にある日清食品発明館には当時の研究小屋が再現されている。1962年に特許が成立し、一時独占維持に腐心したが、1964年に特許を公開・譲渡した。翁はこの業界にトップとして日本ラーメン工業会を立ち上げ、業界をリードした。その後カップ麺も開発した。
 2009年実績で、全世界消費量は916億食、中国だけで409億食とのことである。今や、世界に通じる手軽な食べ物であり、軽量でかつ、熱湯を注げば食べられる優れた保存食である。このように、日常の発想を大切にすると同時に、製品化するまでの涙ぐましい努力の信念を学ばなければならない。
 この製品は自分の生活の中に、創意工夫の着想を持ち、こういうものがあったら、便利で喜ぶ人が沢山いるだろうなと思いつつ、その思いを維持して、ひたすら努力することで、大きな成果を得た。
 この発明は高度な科学技術の知識から生まれたものではなく、日常生活から一歩踏み出した製品である。
 世間では、理科離れを止めようと、子供に理科の実験を見せたり、数学に熱を入れたりしている。これも一理あるが、普段の生活の中にも世の中に役立つ創意工夫の機会が転がっている。これと同様な事例を話し伝えるのも大切ではないか。

安藤百福:一九一〇年~二〇〇七年、旧台湾出身、日清食品創業者、世界ラーメン協会会長、池田市名誉市民、

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