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「アメリカ外交50年」ジョージ・ケナンを読む
昨年機会を得てロシアを旅した。ふれあう人々は穏やかで親切である。料理はおいしく、車窓の景色はのびやかで、歴史、芸術の宝庫だ。歴史をさかのぼると8世紀にキエフ公国として登場する。15世紀以降絶対王政が続き、16世紀のイヴァン4世の容赦ない弾圧、17世紀のピョートル1世の西欧視察とペテルブルグ建設、エカチェリーナ2世の啓蒙専制を経た。20世紀に入り、ロシア革命、レーニン・スターリン体制以後、世界の紛争に介入する脅威の存在となった。日本とは、百年前の日露戦争、第二次大戦時の日ソ中立条約破棄、宣戦布告と日本にとっては恐ろしい隣人だ。
ケナンは、アメリカの外交官として長期間モスクワに駐在し、後政治学者として、自由世界の対ソ観をリードしてきた。トルーマン大統領当時、ソ連の行動を分析し、アメリカ冷戦外交の基本方針を立てた。1950年に「アメリカ外交50年」を著わし、84年に追輔版を上梓した。
要約すると、アメリカは19世紀末ごろ最大の安心感を持っていた。素人外交のまま、スペイン領土の獲得のため、フィリピン、キューバ、グアム、プエルトリコを奪った。中国は英、ロ、独、仏、日に分割される情勢にあった。当時アメリカは専門外交官不在で、現実認識、予見能力に欠けていた。日本に対しては十年一日の如く嫌がらせをした。日清戦争後の三国干渉で日本の勝利の成果を奪い、日露戦争後も日本の中国における立場を剥奪した。また移民政策等でも、日本人を刺激し怒らせた。中国における日本の利益を覆し、地位を毀損する政策は疑問で、このままでは日本との戦争が起こる、日本を抹殺しても、新たな緊張を生み、ソ連が東アジア制覇の競争者として現れる。その結果、米は朝鮮、満州の重荷を引き継ぐ、と説く学者もいた。
ソ連からロシア連邦に代わって、資本主義経済を標榜し、豊かな資源と、勤勉な国民性で成長を重ねている。ペレストロイカを実現したゴルバチョフの指導力が大きく寄与した。この本を読むことで、ロシアの実像に迫りたい。
注 7月の英語を読もう会で「アメリカ外交50年」から第2部第1章「ソヴィエト行動の源泉」を読みます。また、9月のサロン21では「ロシア現代史とゴルバチョフ」を勉強します。