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「800字文学館」 仕事がらみ

ウイークポイント

濱田 優

 なぜかモテる男がいた。
 顔はジャガイモみたいだし、まるで洒落気がない上にぶっきらぼうな物言い……。なのに、女性社員に彼のファンは多かった。
 バレンタインの日には彼のところにチョコレートが集中する。社内で評判の、いい女がしゃれた小包を持ってそっと彼のところに来ると、周りの男どもは心穏やかでない。

 彼は、無愛想でも同僚との付き合いが悪いわけではない。時たま一緒に麻雀もした。仲間同士の麻雀はストレス発散のために遊ぶといった趣が強く、相手をカッカさせようと酷い茶茶を入れたりする。そんな揺さ振りも彼には通じず、泰然としていた。
 彼はゴルフが上手い。永久ビギナーの私とは腕が違い過ぎて手合せする機会は滅多になかったけれど、何かのコンペで一緒にコースをまわったことがある。彼のスイングは理想的で、まるでイメージトレーニングのモデルみたいだった。私は彼のスイングを褒め称え、「模範したいから」と断って後ろから見つめた。と、彼は急にフォームを乱し、チョロを連発した。彼は褒め殺しに弱いのだ。

 どこからフェロモンが出るのか、彼はOLのみならずホステスにもモテる。一緒に飲みに行った仲間は甚だ面白くない。私が惚れているママなぞ、今度来るときは彼を連れて来て、と露骨に催促する。そこで悪巧みを思いついた。彼女に入れ知恵をしたのだ、もっと彼を通わせたいなら褒めちぎるように、と。
 次に彼を連れて行ったときは見ものだった。お世辞のプロが気を入れて褒めそやしたのだからたまらない。彼は、調子を崩して飲みかけの水割りを吹き出すは、グラスを倒して飲み物をママのドレスに引っ掛けるはで散々だった。

 ちょっとやり過ぎたか。でもこれでママの熱も冷めただろう。期待を込めて後日店を覘いたところ、意外や意外
 「彼って可愛いわね。明くる日、昨夜は不調法をして申し訳ありません、っていさぎよく謝りに来たの。男らしくて惚れ直したわ」
 ママはそういって艶然と微笑んだ。

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