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「800字文学館」 日常生活雑感

蝉世界の時間割

志村 良知

 温暖化とかで最近では横浜でもクマゼミの鳴き声が響くが、初めて箱根を越えて住んだ沼津で聞いたクマゼミの声の凄さには驚いた。オイルショックの暑い夏であった。その後十年余り住むことになった愛鷹山山麓は、やや北に戻るせいかアブラゼミがクマゼミとほぼ同勢力で共存していた。

 愛鷹山山麓のセミの最盛期は八月初めである。

 朝四時;ヒグラシ(カナカナ)が鳴き始める。遠くで鳴いているのを聞くのは風情があるが、枕元から数メートルのところにある桜の木の枝で朝四時から鳴かれるとやはりやかましい。
 朝六時;ヒグラシがぱったりやみ、遠くでツクツクホウシが鳴き始める。8月初めではまだ個体数が少なく、ほんの数匹の感じである。同時に庭ではクマゼミが鳴き始める。一匹鳴くと呼応するように辺り一面にいる仲間が一斉に鳴き始める。声もしゃうしゃうと大きいのでやかましいことこの上ない。かなりの数のミンミンゼミも鳴くのであるがクマゼミに圧倒されてしまう。
 朝十時;クマゼミが鳴き止み、しばし真夏の昼の静寂が訪れる。庭の桜や隣の家の欅でおしあいへしあいしているアブラゼミはまだ鳴かないで待機している。ツクツクホウシもミンミンゼミも静寂を破るチャンスなのにクマゼミと共に鳴きやんでしまう。
 昼十一時;アブラゼミが鳴き始める。気温が上がるにつれ、数がどんどん増え、やがてうわんうわんと沸き立つようになる。アブラゼミはそのまま夕方まで鳴き続け、ミンミンゼミやツクツクホウシもそれに和するが、クマゼミだけは沈黙したままである。関東より高温の地域に分布すると言うクマゼミが、午前中涼しいうちだけしか鳴かないというのは面白い。
 夕方六時;さしものアブラゼミも勢いがなくなり、再びヒグラシの声が聞こえるようになる。
 夜;幼虫を見つけ、脱皮するのを観察するのは真夏の夜の楽しみである。
 夜中;ジジッという短い声が時々聞こえる。アリやウマオイのような肉食昆虫の襲撃なのだろうか?。

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