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「800字文学館」

老ラガーの見た「なでしこの踝(くるぶし)技」

中川路 明

 私は学生ラグビー十年の卒業後新潟に赴任した。まだラグビーがなく、独身寮生を集め連日サッカーの猛練習の結果、三年目に県の実業団で優勝した経験がある。
 先日の世界杯世界制覇で見せた、なでしこの三つの超絶技に心を奪われた。1つは各選手のスライディングシュート。次は、横っ跳びの自らの体の上を通り過ぎるボールを、ゴールキーパーが最後になお跳ね止めた踝技、三つは、コーナーキックから宮間選手が狙いすまして後背から送った低い球を、沢選手が鮮やかに踝を振り抜き決勝点を得た秘技だった。
 しかも、なでしこの殆どの選手が、横から投げ入れられる球を的確に踝で左右に処理する離れ業が、翌々日のテレビで紹介され驚いた。相手チームに防ぐ策を授けるから、秘技の公開は早過ぎないかと心配した。
 相手に対し体の小さいラグビーチームの秘技はドリブルだった。すべて格闘のラグビーにおいて、足で運ぶドリブルでは、球だけを奪う以外は反則だ。楕円球を巧みに操作するドリブルが、腰高で大柄の相手対する小柄チームの有力な攻め業であった。しかも、日没後も独りで練習できるドリブルへの執念が踝技に目を留めさせた。
 スポーツマンは、自分の限界を超える技に挑むことによってこそ、勝利の道を開くことができる、という私の信念を勇気づけた。
 番組『徹子の部屋』の黒柳は、名選手の鍛えた筋肉に触れて讃える。沢選手との対談でも、沢選手に触れて向こう脛の内側の逞しい筋肉に嘆声を挙げた。同様に和太鼓の第一人者,林英哲の左右の足を前後に開き、独りで二時間を超える声明太鼓演奏を聴いたとき、目前の彼の下肢の脛を囲む三本の筋肉に絶句したことを想起した。
 昨日のロンドン五輪予選で、世界杯連戦の主力を休ませたが、その唯一の得点も二軍選手の鮮やかなスライディングシュートだった。これから四連戦、僅か十八人の小集団、疲労も極限だろうが、なでしこ集団の『All for one,One for all』の力に日本再建の原動力を期待したい。

(二三・九・三記)

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