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「800字文学館」

必要なのか? ―朝霞の公務員宿舎―

田谷 英浩

 そう思いたくない人、信じたくない人は大勢いるが、常識的には終った。
 朝霞に国家公務員宿舎は建設される事になった。二十㌶の国有地に、森を潰し、一〇〇億円を投じて十三階建て八五〇戸を建設しようというのだ。
 反対運動の端緒は緑を守る、環境破壊の阻止、市民の合意形成無視に対する抗議行動であった。その後運動は市民の間に定着し、一昨年の行政刷新会議の事業仕分けにおいて「凍結」と判定されるまでに高まった。
 一瞬光が射したようで、環境の保全、自然公園建設の道が拓けたかと思えたが、事態はそんなに甘くはなかった。その後の政府民主党の無策、内紛、省益優先、官僚の横暴もあって、あれよあれよという間に「解凍」され、気が付けば国有財産を管理する財務省から工事着工が通知された。
 市は大家の言うことには逆らえないとすぐさま恭順の意を示し、あろうことか各種の公共事業を付帯施設として建設計画に潜りこませた。国、自治体、ゼネコンによる将に談合で、こんなことが許されていいはずはないと大半の市民が怒っている。
 しかも三・一一の発生で、日本の財政が一層深刻な状況に陥り、復興増税まで議論しているなかで、役人専用の住宅を建設するなどは人間の行為とは思えない。走り始めた公共事業は止まらないとは昔から言われているが、自民党が民主党に代わってもこの構図は変わらない。元官僚古賀茂明氏の言を持ち出すまでもなく、役人は国民のことなど考えていない。
 マスコミはこれまでにも、税金無駄遣いの象徴として、この問題を取上げてきたが、それで何かが大きく変わった気配はなかった。しかし九月一日の工事着工以降は、「そんな金があるなら東北に廻せ」と新政権批判を兼ねて、連日大報道を繰り広げている。テレビ各局、日刊新聞、夕刊紙、週刊誌の取材が相次ぎ、「朝霞」の名はいまや全国に知れわたった。しかし工事は終らない。
 さて我々はどうするか。このままでは絶対に終らせたくない。反増税の民主党勢力や野党、とりわけ公務員の制度改革に熱心なみんなの党への働きかけをつよめ何とか止めたい。どこに最終ゴールがあるのかはまだ分からない。

(二〇一一・九・二三)

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