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「800字文学館」

鴨の味

平尾 富男

 私にとって旧知の、友人の弟の娘さんに結婚話が持ち上がった。
 「ちょっと問題があるんで相談に乗ってくれ」と、友人から電話が掛かってきた。
 「実は、相手がオレの死んだ姉さんの息子なんだよ。日本の今の法律では認められているとはいえ、いとこ同士の結婚ということになるから止めさせろと弟に言っているんだ」
 「随分と堅苦しいことを言っているんだな。菅前総理の夫人、伸子さんはいとこだよ。それに、元首相の岸信介と佐藤栄作兄弟だっていとこ同士結婚しているじゃないか。大河ドラマになった『江』の娘、千姫だって豊臣秀頼と結婚しているからいとこ同士だよ」と、捲し立てた。
 相手はすぐに反論する。「今から四百年以上も前の話を持ち出すなよ。血族結婚は生まれてくる子供に悪い影響が出るって言うから心配なんだ。選りに選っていとこと結婚しなくてもいいじゃないか。
 お前だって昔、八歳年上の初恋のいとことの結婚を諦めたと言ってたぜ」
 「馬鹿言うな。相手は私が高校生の頃には結婚していたし、初恋が実る話は滅多にないよ。それに、医学的にもいとこ同士の結婚の遺伝的リスクは、仮にあっても、高齢出産の場合に母子が被る危険と同程度だと聞いているぞ。
 ひょっとして、あんたは他に特別な理由があって結婚に反対しているんだろう」
 友人はそれには答えずに、電話を切った。
 暫くして、奥さんがいとこ同士の両親から生まれたと白状してきた。
 「だから、子供を作ることを拒もうとするし、今でもオレには物凄く嫉妬深いんだ。両親から受け継いだ血がトラウマになっている」
 私は言った。「奥さんの嫉妬はむしろあんたの方に問題があるんだ。ところで、アインシュタイン、ストラヴィンスキー、ダーウィンの他にも、たくさんのいとこ結婚の事例があるよ」
 諺に『いとこ同士は鴨の味』と言うだろう。来世に結婚するとしたら、絶対に相手はいとこにするよ」
 友人が心配していた姪の「鴨の味」婚は成立することになった。(了)

(2011.09.29)

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