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「800字文学館」

ブルターニュのタラソテラピー

志村 良知

 慣れない海外での営業職のストレスで、めまいがするほどの背中と肩のこりに悩まされ、家庭医に一週間のタラソテラピー(以下タラソ)を処方してもらった事がある。
 タラソとは海の力で全身の疲れを取り、活性化させる療法で、処方箋があれば保険が利く。家内も首の凝りを訴えて処方箋をせしめ、揃ってブルターニュのポルニチェという町にある施設に繰りこんだ。保険が利くと言ってもタラソ料金についてだけで、滞在中のホテル代等は実費なので結構な出費となる。そのためか仲間は余裕のありそうなお年寄りが圧倒的であった。

 タラソ施設では、まず専属医の診断と主任トレーナの面接を受け、どういう治療と運動をするのか決めてもらう。要は海水プールでの運動と各種打たせ湯とマッサージの組み合わせである。もちろん全身泥パックもある。
 プールは胸の深さでさまざまな運動器具が設置されている水中運動用。トレーナの一人は若い体育会系美人。ハイレグの競泳用水着姿でプールサイドに立ち、動きのお手本を見せると、水中のご婦人たちから「きれいだねえ」と嘆声があがるヴィーナスであった。
 私は、比較的若いのにひどい肩こりということから、主任トレーナは運動不足と判断したらしく、背中や肩に負担をかけての運動が多く課せられた。その一つに水面すれすれのバーを使った種目があった。バーに掴まって水の抵抗を振り払ってジャンプし、腕を突っ張って上半身を完全に水面上に出すのを連続するのはなかなか辛い。担当はいつもヴィーナス嬢で、「ここをバーの上に載せる…。ほら見て、ここ」、とハイレグ水着で自らの「ここ」なる場所を強調しつつ模範演技を見せてくれるのだった。

 治療は午前中で終わり。海辺のカフェでシードルを飲みつつクレープをつまんだ後は昼寝と散歩、ディナーはブルターニュの魚介類と、とにかくリラックス、の贅沢な一週間を過ごした。その甲斐あって背中と肩は完治、おまけにお肌がすべすべぴかぴかになった。

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