作品の閲覧

「800字文学館」

紅葉の回廊

濱田 優(ゆたか)

 朝、宿を出るとき、おユキ姐さんが「ニチエンを通って行く」と告げた。
 7人のメンバーが3台の車に分乗して鬼怒川に向かう。ぼくは船屋の秋ちゃん号の助手席に乗る。後ろは紙屋の河さんだ。走り出してから、同乗の三人とも予習していなくニチエンを知らないことが分かった。
「とにかく、おユキの車の後を付いて行けばいいよ」
 ナビ役をすべきぼくはあっさりと職務を放棄する。それでも途中の標識で、ニチエンは日光と塩原を結ぶ「日塩もみじライン」と知った。

 有料の日塩もみじラインに入るや、河さんが最初のカーブで目ざとく45という数字を見つけ、全線28キロのカーブの数だろうという。実際その通りで曲がりくねった坂道を登っていく。日光のいろは坂はいろは48文字に因んだと聞くから、それに匹敵する九十九折である。
 運転する秋ちゃんは大変だが、ぼくは、前面に広がる紅葉の絶景の、次々と切り替わるスライドショーを心いくまで楽しんだ。11月に入って見頃を迎えたカエデ、ナナカマド、ブナ、ナラなどの紅葉、黄葉が秋日和に映える。
 展望が開けたところから眺める全山錦の景色も一幅の絵になるけれど、紅葉トンネルの回廊をドライブしながら見上げる光景は、また格別の風情だ。逆光の紅葉の透過光は、灯りのように柔らかく光り、豊かな色彩と濃淡のグラデーションをあやなす。目を路面に移すと、さまざまな落葉が木漏れ日と戯れて賑わしい。ぼくらはその趣の面白さに言葉を忘れて見入った。

 同行の女二人、男五人は高校時代のクラス仲間だが、よくある仲良し7人組ではない。掛け声だけで行動力に欠けるクラスの男どもに業を煮やした、おユキ姐さんが、お膳立てをして「この指とまれ」と挙げた指にとまった者たち。既述の4人に札幌夫人、学者、電算屋を加えたかなり個性的な連中だが、今回は程よい人数でまとまりがよく、昨夜は那須温泉の宿で遅くまで語り合った。気持ちのよい旅ができて、頼りなる女性パワーに感謝である。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧