正倉院展
この秋初めて正倉院展を見た。日曜の午後遅く行ったので、奈良国立博物館の展示館では列に並ぶことなく入館できた。
正倉院展は、正倉院に保存されている宝物が毎年秋に曝涼(虫干し)されるのに併せて、一般に公開される特別展で、戦後に始まり今年は63回目。
宝物は、天平勝宝年間(750年ごろ)に光明皇后が東大寺に献納した聖武天皇の遺愛品を中心に、大仏開眼会などに皇族・貴族から献納された品々、法要に使われた仏具、東大寺の文書など合わせて約9千点。校倉造りの正倉院正倉と空調完備の鉄筋コンクリート造りの宝庫に保存されている。
今年展示されたのは、聖武天皇が身に付けた衣装や太刀と什器、香に関するもの、東大寺伽藍にあった武具・武器類、染織品、文書類など62点。
伎楽の面「酔胡王」が目につく。木製で翼のある獣をあしらった冠をつけているが人間らしい顔つき。表面に白い顔料が残る。東大寺の法会などでこの面をつけ泥酔した演技で観衆を楽しませたといわれる。面の裏に相模国と墨書されている。この地から貢進されたのだろうか。
めずらしい香木があった。黄熟香という長さ1・5mの黒ずんだ木片。ベトナムかラオス辺に産するジンチョウゲ科の木という。東大寺の三文字が隠されているので蘭奢待(らんじゃたい)の名がある。香の成分を含まない部分を切り抜いたので空洞になっている。後年足利尊氏、織田信長と明治天皇が切り取って焚いたといわれ、切り痕に「織田信長拝賜之處」の付箋があった。
古文書類が9点。東大寺寺域地図は、ぼやけているがよく見ると山、川、堂宇などの建物が分かる。「山堺勅定」は、寺域の境界を示す権利書みたいなものか。きれいな楷書体で書かれている。
「口分田」の割り当てに不可欠な戸籍があった。「養老五年下総国戸籍」は、紙面いっぱい細かい字が埋まり、朱印がべたべたと押してある。
「咲く花のにほふがごとく今盛りなり」と詠われた天平文化と国運隆々の律令国家を感じさせる宝物だった。
(11・11・28)