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「800字文学館」

衰退する一次産業

稲宮 健一

 失われた十年、最近は二十年と言われ活力がない。それでも、新エネルギー開発、電気自動車、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ICT革命など、産業界は次世代を進みだしている。
 一方、農業、林業、漁業など一次産業は構造的な欠陥が内在して立ち上がれない。これらはどうやら、高度成長期に二次、三次産業の成果である一次産業に還流された資金が身近な改善や、酷な言い方をすれば保身のために消え、国家百年の計に基づく産業基盤の構築には回らなかった。

 例えば、旧国鉄は戦後外地から引き揚げた多くの人を雇用して、職の安定に寄与した。しかし、石炭の時代が終り、都市への人口の集中で輸送形態が変化したため余剰人員が発生し、人件費が重荷に成ってきた。合理化による事態の打開は組織防衛が前面に出され、徹底抗戦された。最終的に民営化で幕が降りた。切り替え時には退職金を積み増し、重荷を降ろし、普通の企業になった。旧国鉄は巨大な組織であったが、一つのまとまった団体であったので、政治決断ができたと考える。
 それに比較して、一次産業は全土に広く分布しているので、農水省が国単位で舵取るしかあり得ない。これらの産業にため、今まで随分補助金が注ぎ込まれたが、産業に従事する人々には届いたものの、基盤強化への波及は微弱で、今日の様な問題を抱えたままになっている。

 林業を例にとると、木材は単位容積当たりの原価は安く、輸送するとコストがかさむので、国内産業に向いている。日本には豊か木材資源と、大きな需要があるので、あとは、林業を知識、技術集約産業に転換して、合理化を進めれば立派な国内産業になり得る。残念ながら、今までの補助金がちまちまとした間材の伐採などに雲散霧散し、生産手段や人材の今日的な資産として残ってない。
 国単位になると、複雑な利害関係があるが、しかし、今が変革のチャンスである。古いしがらみを乗り越えて、出でよ、若き次世代を担うリード達。

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