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「800字文学館」

アメリカの医療費

松谷 隆

 10数年来、アメリカ旅行には必ず海外旅行保険を掛けている。というのも現地では、支払能力に応じた治療しか受けられないからである。

 昨年11月、東部に滞在中、風邪を引き、そのまま西部へ移動した。が、胸の痛みと血痰がひどくなり、初めて保険会社紹介の救急病院に飛び込んだ。
 まず受付で申込書を出すと、「初診料は175ドル。受診するか」という。「あたりまえだ」「現金か、保険か」「クレジットカード払い」というと、「それなら、80ドル割引する」「えっ!」。
 待合室には土曜日のせいか、1組の先客ありで、1時間弱待たされてやっと順番がきた。が、まず看護師が記載内容を確認、体温・血圧を測ってから、医師が登場し診察。「気管支炎だよ、放置すれば肺炎になる」との宣言。「応急処置で、体力回復のための静脈注射、気管支をひろげる噴霧吸入と抗生物資の服用が必要だ。500ドル以上かかる。どうする」と「金はあるのか」と言いたげな口調でいう。
 頭にきた。しかし、これ以上の悪化は困るので、しぶしぶ「OK」。この処置には2時間以上もかかった。支払を済ませたら、看護師が、「これはプレゼントだ。今日2錠、明日から1錠ずつのむこと」と抗生物質をくれた。

 これで小康状態になった。だが、帰国時の約15時間の飛行が不安で、搭乗前日に再度保険会社に連絡し、別の病院で診察を受けた。結果は「搭乗OK」で、最後の夜を充分に楽しんだ。  8000円の保険料で、合計800ドル近い治療費・薬代を清算できた上に、アメリカの治療費の一端を知ることができたのでよしとしよう。いや待てよ。日本のはどうか。帰国後咳が止まらず、かかり付け医に行った。X線撮影を含め、診察料と薬代は3000円弱。3割負担なので、全額なら1万円だ。どう見ても、日本の医療費は安い。  TPP参加交渉の事前協議が始まっている。しかし、参加ありきで、日本の医療費がアメリカ並みになることは絶対「反対」である。

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