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「800字文学館」

ナンバ歩きの犬 その後

志村 良知

 以前ナンバ歩き、即ち側体歩の犬の事を書いた。その時色々調べ、犬は基本的に側対歩の動物ではないが、群れの最後尾護衛専門の牧羊犬、人に合わせて歩く盲導犬、獲物を見つけて忍び足するセッター、などゆっくり歩く中・大型犬は側対歩である、と云うような基本知識を得た。
 犬のように本来トロットと呼ばれる歩き方をする動物は、側対歩になることにより遅くなる。馬の側対歩を意味する英単語ambleにはぶらぶら歩くという意味もあるらしい。

 その目で改めて町中の犬を見て新しい発見があった。犬の側対歩は同じく側対歩の親犬の真似をするとか、子犬の頃の癖を飼い主が放置するとかというのではなく、日常散歩に連れて行ってくれるご主人様の歩く速さに原因があるらしい。  お年寄りが連れている中型犬はまず間違いなく側対歩であるし、ビーグル程度の犬でも側対歩犬が多い。そして彼らは例外なくゆっくり歩いている。散歩なんだからそんなにせっせとは歩かないよ、とおっしゃるかもしれないが、犬はご主人様の歩く速さに合わせる為に不自然な歩き方をしているということになる。これは犬にとっては、ご主人様と一緒で楽しい事は楽しいがもどかしい思いもあり、嬉しさも中位なり、の散歩ではなかろうか。  盲導犬は人との信頼関係と訓練と任務中も絶えず声をかけられる事で、側対歩をオーナーと一緒に行うゲーム感覚でいる可能性があるが、普通の犬は側対歩で歩いていることを認めても貰えない。側対歩の犬を連れている方に時々話しかけてみるが、ほとんどの人は自分の愛犬が側対歩である事に気づいておらず、犬が自分に合わせてくれているらしい、という認識がない。

 犬を飼う人は、愛犬のトロットの速さで一時間位は散歩できる体力があることが必須では無いかと思う。分不相応な中・大型犬を飼うのは、犬の一番の楽しみは散歩のはずなのに、愛犬はゆっくり歩きを強いられ徐々に不満を募らせていく、ということになりかねない。

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