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「800字文学館」

九州はすごい (一)杵築

小寺 裕子

 一月二日、八時過ぎに大分空港に到着。最近は片道ずつ安い航空券を買えるので、一人一万円を切る早朝便にした。
 年末忙しかったこともあり、宿だけ予約し、どこを観光するかはまったく決めていなかった。とにかくゆっくり温泉にさえ入れればいいと思っていた。
 機内でガイドブックに目を通した夫が、とりあえず杵築に行こうと言う。車で二十分も走ると、小さな港に、大漁旗や笹飾りをたなびかせている漁船が停泊しているのが、いかにも正月らしい。さらに十分ばかりで杵築に到着。
 たった三万石の城下町だが、南と北の台地に武家屋敷が並び、その谷間に商人町があり、当時の地形と面影をよく残している。賛否両論の末、ごみごみとしていた谷間の家は取り壊され、大きな道の両脇に商家を復元してある。
 馬や駕篭かきの歩幅に合うように作られた緩やかな階段の「勘定場の坂」を登ると家老屋敷があり、まだ三が日だというのに、ボランティアガイドが案内してくれた。重厚な茅葺き屋根で広い屋敷だが、子供たちは一部屋に寝ていたそうだ。お風呂も質素な作りで驚いた。
 北台の「酢屋の坂」からの眺めは絶景だ。急勾配の坂上から、谷間の商人町に向かって階段が続き、その向こうが緩やかな登りになっている。眼下に広がる武家屋敷、馬場の壁、白壁の景色はタイムスリップしたのかと思うほどだ。
 この町で感心したのは、無料の駐車場がたくさんあることと、人が親切なことだ。私が地図を片手に立ち止まっていると、軽自動車に乗ったおじさんが「どこか捜しとる?」と声をかけてくれた。
 天満宮ではお正月は火を絶やさず焚くそうで、たき火に当たらしてもらった。おじさんに「ボランティアなんですか」と聞くと、「そう言うんかな。自治会だけどね」と答え、近隣から大手の工場が相次ぎ撤退し、若い人がいない町は寂しいと話してくれた。江戸時代から絶やさず実をつけるという境内の梅干しを求め、町がこれから末永く繁栄するように祈った。

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