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「800字文学館」

老人の生き甲斐

都甲 昌利

 現在の日本で大きな問題は高齢化社会とその中で生きる老人の生き甲斐であろう。増える一方の老人に対して支える若年層は減っていく。若者は年金を払わなくなり、まもなく年金制度は破滅する。後期高齢者医療制度も大金がかかり財政を圧迫している。若年層は文句の一つも言いたいだろう。

 ある日、区役所の前を通りかかったら「国に貢献する素晴らしい職業があります。自衛官募集」のポスターが目に入った。この時とてつもない妄想が浮かんだ。若者に支えられているのに、国や社会に何も貢献していない老人は肩身の狭い思いをしている。生き甲斐をなくしている。電車やバスに乗ると多くお元気なお年寄りの姿を見る。夜は夜で居酒屋は老人で盛り上がっている。カラオケ喫茶は老人で満員だ。同窓会、会社の同期会、老人クラブの宴会が盛んである。老人パワーはすごい。この老人力を発揮して自衛隊員に志願したらどうだろう。年金制度と老人医療制度が同時に解決するのだ。

 それにはまず法律を変える必要がある。自衛隊員の年齢制限を撤廃し「70歳以上でないと入隊できない」とすべき。70歳以上の日本人であれば誰でも志願できる。男女は問わない。
 入隊すると一応訓練があるので適度の運動が出来る。国土を防衛する任務があるから若者に自慢できる。糖尿部隊、高血圧部隊、前立腺部隊、心臓病部隊に分かれそれぞれの駐屯地に配属され、それぞれ病気に見合った食事が用意され老人医療が受けられる。

 この部隊は老眼で鉄砲を打っても当たらないし、ハイテク最新兵器の使い方が分からないのが欠点だ。この欠点を逆に生かすのだ。愚かな独裁者の国が攻めてきたら、老人部隊が最前線に立って国土防衛をする。この脆弱な軍隊に攻撃を仕掛ける国があるだろうか。もしそういうことをすれば国際社会から轟々たる非難をこうむる。老人を大量虐殺したと汚名を後世に残す。ヒットラーやポル・ポトのごとくに。だから攻めてこない。かくて平和は保たれる。

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