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「800字文学館」

ストレステストの正体

池田 隆

 野田首相は大飯原発に対しストレステストの一次評価を受けて再稼働の政治決断を行う意向だ。対して斑目原子力安全委員長はそれだけでは不十分という。

 さてストレステストとは一体何だろう。
 発電機器の設計に長年携ってきたが、初めてこの言葉を聞いたのは昨夏である。直訳すれば強度試験かな。工学分野でテストや試験といえば、実製品やそのモデル、あるいは部位の一部など、実物を用いて強度や機能を調べることを指す。机上の数値計算や理論解析と対峙する評価法である。
 そこで語句の意味をインターネットで調べてみた。
 「3・11直後、EU各国やIAEAが既設原発の安全性を再確認するために始めたコンピューター解析で、地震などについて従来の安全基準で定めた以上の条件を入力し、各設備やシステム全体の余裕度を求め、過酷事故になるか否かを検証する」とある。
 本来ならばsimulation とかcalculation と云うべきだが、test と言い換えている。安全確認テストといえば、多くの人がテレビで見る自動車の壁衝突実験のシーンなどを思い浮かべ、安心するとでも思ったのか。些か胡散臭い命名である。

 元技術者としてはストレステストの中身を勉強し、周囲の人に易しく説明する務めを果たしたい。インターネット検索などでその詳細内容を知ろうとするが、まともな情報が見つからない。当局は内容をどこまで公開しているのだろか。空しい検索を続けながら、私の考えが少し変ってきた。

 ストレステストとは神社のお札のように中身は只の板切れ同然かも知れない。論理的にもデータ的にも根拠薄弱で公開したくない代物なのだろう。中を開くと有難みがなくなり、皆が拝まなくなる。
 とは云え、ストレステストを原発再稼働の条件と菅元首相が決めた意義は大きかった。おかげでこの一年間に国民は原子力関連の知見を格段に深め、原発がなくても節電努力で日々を過ごせる自信を得た。
 原発災害の根本的なリスク回避と、卑近な経済的利得の何れを選択するか、次は国民が叡智のテストを受ける番である。

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