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「800字文学館」

娘との新婚旅行

中村 晃也

 「イヤー、参ったよ」と、すぐに参る友人がこんな話をしてくれた。彼は早くに奥さんを亡くし、三十歳を数年越した一人娘と暮らして居る。

 ある時、娘さんから、「お父さん、私もいつ結婚するかわからないからその前に二人で外国に旅行でもしない? 私は会社からまとまった休暇をとれるから」と言われてその気になった。
 彼女が申し込んでくれたツアーは総勢三十人ほどのハワイ旅行だった。皆ペアー参加でほとんどが若いカップル、彼だけが飛びぬけての年寄りだった

 ホテルの部屋に案内されて、先ず目に付いたのはレースで飾られた天蓋付きのダブルベッドだった。「おいおい、こんなベッドでお前と寝るのかよ」と娘さんに言うと、「料金が安いからしかたないわよ。お父さんがイヤなら私はソファーで寝るからいいわよ」と軽くいなされた。

 翌日は、参加者の中から三組の結婚式があり、「特にご予定のない方は式に参列してください」との要請に応えて、見知らぬカップルの門出を祝うことになった。
 外出の際、ドアボーイが彼に言った。「ご自分の娘さんのように若い奥さんを貰って本当に羨ましい。貴方は何回目の結婚ですか?」

 これで全てが判った。娘さんの選んだハワイ旅行は新婚、またはハワイで結婚するカップルのためのパック旅行だった。
 外国旅行に詳しくない娘さんは、友人から「あのパック旅行は手軽でいいわよ」と勧められて、よく内容を調べずに参加申し込みをしたらしいのだ。

 若い人達に囲まれて、乗馬体験やらヨットクルーズに付き合い、いよいよ帰国の日が来た。「お父さん、ごめんなさい。私がウッカリして、とんでもない旅行につきあわせて」と娘さんは彼にあやまった。「私自身はエンジョイしたので、お父さんさえ良かったら、三年後にまた一緒に旅行したいな。もっともその前に、私が結婚していないことが条件よ」

 「参ったなあ。早いもので、その三年後が来てしまったのだよ。どうなることか」と彼はまたまた参っているのである。(完)

二十四年三月

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