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「800字文学館」

遠野のコンセサマ

大月 和彦

 遠野物語にコンセサマの話がある。
 「コンセサマを祭れる家も少なからず。この神の神体はオコマサマとよく似たり。オコマサマの社は里に多くあり。石または木にて男の物を作りて捧ぐるなり。今はおいおいとその事少なくなれり」(第16話)。
 ザシキワラシ、オシラサマ、オクナイサマなどが家の神として庶民の生活の中に生きていた。
 コンセサマは金精様とも書かれ、本来は男性を祀る性の神だったが、妊娠、安産、子育てや子孫繁栄、縁結び、夫婦和合の神として全国的に広い信仰を集めている。

 遠野地方には民間信仰として崇拝されるコンセイサマが祭られていたがほとんど見られなくなった。市の観光案内には山崎と程洞(ほどほら)の二か所に祀られているという。
 遠野市観光の中心地土淵町のカッパ淵から5㎞ぐらい西北の山の麓に山崎という一〇数戸の小さな集落がある。ここから谷川に沿って山道を半キロぐらいの谷間にコンセイサマがあった。林が途切れた明るい平地に、小さな堂宇が建っていた。本殿内部の正面に〆縄が掛けられた巨大な男根の形をした石が鎮座している。
 内部の壁には願文を書いた紙が所狭しとばかり奉納されている。

 また社殿の前庭に高さ1・5mぐらいの男性の象徴の形をした石が安置されている。40年前に近くの砂防工事で見つかったものだという。

 社殿の廊下には参拝者用のノ―トが置いてあった。「今年こそ、子宝に恵まれますように」、「四代目ができますように」、「元気な子が生まれますように」、「二人目が欲しい」などの書き込みがある。
 子孫を得て、家を存続させ、繁栄させることは昔も今も人々の強い願いなのか。

 市の西方にある程洞のコンセイサマを訪ねた。花巻に通じる街道から山道に取りつく。駅前の案内所で借りたクマ除け鈴を腰につけて杉林の中の坂道を30分登ると、赤い鳥居と朽ちかけた神社にコンセイサマが祀ってあった。鍵がかかっていて中を見ることができない。
 春の例祭には子宝と婦人病の治癒を祈り多くの人が参拝するという。

(12・3・22)

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