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「800字文学館」

ユキツバキの咲く山里

大月 和彦

 12日忘れてならぬ栄村
 今年3月14日の朝日川柳に載った一首。作者は大和高田市の女性。「今年特に豪雪」の評がある。
 東日本大震災の翌日未明に起きた長野県北部地震から一年経った。豪雪の中震度6強の揺れに見舞われた栄村は、死者はなかったものの家屋の倒壊、道路や農地の損壊など大きな被害を受けた。
 一周年の3月12日にはメディアが被災者の生活や復興の状況を報じた。被災者は仮設住宅の庭に雪洞を作り「灯明まつり」を行ったという。
 今年は6年ぶりの大雪で、4月2日までの累計降雪量は1845㎝を記録した。暖地仕様の仮設住宅や地震で一部壊れた住宅は雪の重みで倒れそうになった。除雪作業で死傷者が出たという。
 村から離れた人が30人余、避難生活や仮設住宅にいる人が200人余と人口2400人の村としては震災の爪跡が大きい。まだ住宅や農地の復旧のメドが立っていないという。

 栄村はユキツバキが咲く山里である。
 10年ほど前、栄村が村おこし運動の一環として自然学校を作り、村教委が学習参考資料として『写真で見るユキツバキの一生』という写真集を出版した。監修には同村出身でユキツバキ研究の第一人者といわれる元新潟大学教授があたった。
 常緑低木のユキツバキは、東北・北陸の日本海側の低い山地に分布し、積雪地帯を代表する花木。高さは1~2m、雪が解けるころサザンカに似た花を開く。新潟県の木になっている。
 新潟県の頸城丘陵の南につながる栄村の山間地が、ユキツバキ分布の南の限界になっている。雪の下から起ちあがり、花を咲かせ、果実と花芽をつけ、冬ごもりに入るユキツバキの生態の写真が収載されている。
 深い積雪の下で、厳しい寒さから身を守ったユキツバキは、5月に雪から開放される。ブナの樹の根元から円状に雪が解け始めると、押さえつけられていた枝はピーンと復元する。枝はしなやかで強い屈撓性を持っている。
 豪雪だった今年は、被災地の山里で勢いよく咲き乱れる。

(12・4・12)

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