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「800字文学館」

次世代への責任と流動資産税

池田 隆

 福島原発事故の原因究明とその直接責任が論議されている。さらには事故を惹起した社会的な背景や責任の明確化も大切である。
 原子力行政を主導してきた原子力村の当事者に大きな責任があることは自明だが、その村から間接的に恩恵を受けた人や、村の存在や実態を見過ごしてきた人にもそれなりの責任がある。後世の人たちは現世代のほぼ全員に責任があると思うだろう。
 貴重な環境を放射能で汚染したことは次世代に謝るしかない。我々はせめてその後始末にかかる財政負担だけは次世代に持ち越したくないものだ。
 福島原発事故に対する補償費や対策費だけでも十兆円を超す見通し。国内原発の廃炉費用や使用済核燃料の処理費用は予想もできない巨額になる。  この財政負担を如何にすれば現世代で解消できるのか、考えてみた。

 国民一人ひとりはエネルギー政策をはじめ多面にわたる公的施策のもとで経済活動を行ってきた。その結果程度の差こそあれ、我々は他国に比べ高収入を得て、個人資産も増やしてきた。現在の個人流動資産の総額は千五百兆円規模という。一人当りの資産も世界最高レベルにある。
 それなのになぜ流動資産に累進的な税を掛けないのか。個人流動資産に固定資産税並みの平均1.5%の税率を掛けると数年で百兆円規模の額となる。それを原子力の後始末費用に当てればよい。
 個人流動資産のなかで預貯金、株券、債券などの公的把握は難しくない。問題は所有通貨の把握だろう。
 ところが通貨の流通量はカード社会の到来で総個人流動資産の5%前後に落込んでいる。歴史的使命を終えつつある通貨を全廃し、新たなマイナンバー制度と連動させて国民一人ひとりに日銀通貨カードを発行する案は如何に。カードには各人が保有する通貨額と商取引や譲渡による通貨の移動額を記録していく。あとは国民に年一回のカード提出を義務づければ済む話である。
 私自身の流動資産額は退職者一般の平均レベルだが、” Tax us! ” と叫びたい。

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