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「800字文学館」

画家の生涯絵具消費量

志村 良知

 美術史の教科書にその絵が必ず載っている画家で、生涯で最も大量の絵具を消費したのはルーベンスではないだろうか。ルーベンスの名の下の超大作は、ヨーロッパの至るところの美術館にあり、壁一面を覆いつくす連作があったりもする。大家となってからのルーベンスは工房を構えて弟子を使い、注文に応じて効率的に次々と超大作を制作していったというから、彼一人で全部を描いた訳ではないだろうが、そのサイズと数と厚塗りの画風から、生涯で消費した絵具の量第一位の座は確定であろう。
 ナポレオン関連で大作を描いたダビッドや、カンバスに描かれた絵として世界最大と第二位を独占するヴェロネーゼも少なくはなさそうであるが、物量差でルーベンスには敵いそうにない。レンブラント、ゴヤ、ドラクロワ、モネ、ルノワール、フジタなど長生きした画家たちも上位に来そうである。ピカソやマチスはカンバス一杯に塗りこめるような画風ではないのでそれほどの量ではなかったであろう。

 反対に、そこそこに長生きして制作期間も長かったのに、生涯絵具消費量が少なかったのではないかと思わせる画家もいる。例えばセザンヌで、制作点数は非常に多いが、薄塗りの画風、小品が多いことなどから生涯でルーベンス最盛期の一カ月分位しか使わなかったのではないかと思う。ベラスケスも大作を残した割には絵具消費量が多くはなさそうである。彼の絵は近づいてみるとキャンバスが透けるような一筆描き箇所が目立つ。
 早世した画家や寡作だった画家、超大作は描かなかった画家達も生涯絵具消費量は多くはないであろう。現在の日本で展覧会の集客力ナンバーワンというフェルメールも生涯絵具消費量ランキングではかなり下の方であろうし、ダ・ビンチも多くはなさそうである。ユトリロ、モジリアーニは当然ランク外、ゴッホとなると瞬発力は侮れないが制作点数で長命の画家たちには届きそうにない。
 専門美術史家の研究を待ちたいテーマである。

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