作品の閲覧

「800字文学館」

パリの地下鉄で

野瀬 隆平

「パリに行く」と言ったら、友人から「パリの地下鉄はスリが多いから気をつけろ」と忠告を受けた。幸い、スリの被害には遭わなかったが、地下鉄では思いもかけない経験をした。

 写真撮影を終えて、仲間と一緒にホテルに戻ろうと、地下鉄のオペラ座駅へ向かった。改札口が日本とは少々違う。磁気データが入った切符を通すのは同じだが、バーが回転して通れるようになった先に、金属製の扉が立ちはだかっている。バーを潜り抜けても、扉が開かない限りホーム側には行けない。
 予め買っておいた切符を通したが、バーが回転せず扉も開かない。数回試みたが駄目だ。隣の通過口も同様である。仲間の一人が何度か切符を通しているうちに、うまく開いて通過することが出来た。このチャンスを逃してなるものかと、通過し終えた仲間に扉を押さえておいてもらい、バーの下を潜って仲間の女性が通過した。

 その時、どこからともなく黒装束の男が二人現れて、女性の両腕をがっしりと押さえた。びっくりした女性は「キャー」と叫び声をあげる。何事かと思ったら、男たちは駅の係員らしく、不正に入場させないように、見張っていていたようだ。こちらは、正しい切符も持っており無賃乗車をする気など毛頭ないのだが、異常な方法で改札口を通過したことには変わりない。  どうしても、罰金50ユーロを支払えという。大の男二人に両腕を掴まれていては、彼女に否も応もない。泣く泣く大枚50ユーロの罰金を支払うことに同意して、やっと解放された。

 事の成り行きを、その場に居合わせたカップルが見ていた。日本人の若い女性とフランス人の男性である。その女性に日本語で、どうしてもバリアーが開かないから、やむなく潜り抜けて通ったのであって、ただ乗りをするつもりなど全くないことを説明し、フランス人のパートナーを通して、二人の係員に訴えてもらった。しかし、罰金を支払い領収書まで貰っていたこともあり、無罪放免とはならなかった。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧