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「800字文学館」

伝言ゲームと最悪のシナリオ

大月 和彦

 福島原発事故から1年3か月、民間や政府、国会による事故の調査・検証の結果が次第に明らかにされている。5月に国会事故調で行われた関係者の証言は興味深い。
 深刻な危機が迫る中で官邸、保安院、東電間の情報が錯綜し、当事者の経産相が伝言ゲームのようだった証言するほど混乱していた。

 その一つ、東電の作業員撤退問題がある。
 ベント、水素爆発、海水注入など事態が緊迫した3月15日未明、東電社長から経産相と官房長官に作業員を撤退させたいという電話があり、官邸はこれを現場から全面撤退する趣旨と受け止めた。総理が直ちに社長を官邸に呼びつけ「撤退はありえない」と指示すると、社長は「はい、わかりました」と応じたという。直後、総理は東電本店に乗りこんで念を押す。

 後に東電社長は、全面撤退は全く念頭になく、必要な要員を残して退避したいと伝えたと主張する。最悪の場合残すのは100人ぐらいと認識していたとも証言した。
 経産相、官房長官とも「全面撤退」の言葉はなかったものの、前後の関係からそのように理解した、撤退したら大変なことになると言っても反論はなかったと証言する。

 言った言わない論争は別にして、官邸の首脳は電話でのやり取りから一時期、東電が現場から撤退し、無人になると考えていたことは間違いない。
 第一原発の原子炉が制御不能になって水素爆発を起こし、人が近づけなくなり、すべての原子炉や使用済み燃料プールが空焚き状態になって爆発が連鎖する。第二原発も危なくなり、首都圏3千万人の避難が必要になる・・・という最悪のシナリオを回避するため、国のトップが現場死守を指示するのは当然ではないか。
 一部残った要員で第一原発のすべての原子炉を制御できるのだろうか。放棄することにならないのか。

「総理の一連の対応が全面撤退を阻止したとは思えない」と国会事故調はいう。
「何としても抑え込まなければならない。私自身は命をかけてもやらざるを得えない・・」とした総理の決断と行動を支持したい。

(12・6・13)

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