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「800字文学館」

菅前総理お疲れさま

稲宮 健一

 福島原発事故の国会事故調査委員会報告書(要約版)を読んだ。七月六日付の新聞は初動の総理官邸や、菅前総理の取った行動が混乱の原因と最初に挙げ、次に事故は原子力関係者の無知、傲慢に依って引き起こされた人災と報道している。
 記事ではスーパーマン的な指導者がいたらこのような混乱は起らなかったと暗に主張している。しかし、技術系の総理は今起きている物理現象を理解しようと努めたが、周囲が応えてくれなかった。自分が動くしかないと独断で行動した。これは非常時の管理体制が歴代に渡って築かれていなかった故で、個人の資質の問題にすり替えてはいけない。たまたま、菅前総理が想定外の事故に突き当った。
 それに比較して、後者の指摘は正に事故の根源的な原因であり、原子力関係者は安全に関する思考過程を変えなければいけない。他の災害でも然りだ。

 筆者は他の研究会で、失われた十年の期間に発生した重大事故を分析し、改善を提言した。その中で、一九九九年に発生したJCO臨界事故は、一九七九年JCO設立時に作成された濃縮ウランの厳格な取扱い手順が、管理者の度重なる代替わりのうち守られなくなり起きたと判断した。現場で簡略化された杜撰な方法で濃縮ウランを取扱ったため臨界状態を引き起こした原子力災害である。この時、東海村に限らず、総ての原子力施設で安全基準を初心に帰って見直すべきであった。

 また、スマトラ島沖大地震で大津波が襲った時点で、もし、日本でこれが発生したらと着想し、防災の見直しをすべきであった。最近の地質学の発達で、八六九年、貞観地震でこの地方に大津波が襲ったようだと解明され始めた。しかし、千年に一度は想定外として葬られた。起きてしまえば、確率事象から確定事象になり、対応が迫られる。その感性が失われていた。

 我々の心情の中に、台風一過とか村社会の掟など、自由な発想を阻害する気風がある。この負の遺産を自ら打破する以外に解決の道はない。

JCO:㈱会社ジェー・シー・オー、住友金属鉱山の子会社

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