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「800字文学館」

日本国憲法に「脱原子力条項」を追加しよう

池田 隆

 脱原子力は現日本国憲法で謳う政体、人権、戦争放棄などより高次元の重要事項である。それは一度核兵器が使用され、原発事故が多発すれば国家や国民の存続自体を危うくするからである。放出される放射能物質や核廃棄物も半永久的に環境へ悪影響を及ぼす。

 福島原発事故に対し国会事故調査委員会は、先送り・不作為・自己組織防衛といった原子力村の風潮を根源的原因とみなし、「人災」と結論づけた。
 私はこの事故をさらに根源的に「文明災」と考える。
 近代西欧文明においては自然科学が他分野との調和も取らず独自に急速な発展を遂げる。並行して人間の利己的欲望に基づく物質経済が社会を支配する。
 二十世紀に入り自然科学は地球上に元々存在しない原子力を生み出し、人類の存在をも脅かす巨大エネルギーの核兵器や原発を作るに至る。
 一方この巨大エネルギーを扱う人間については哲学や思想、倫理などの形而上分野の発展は鈍く、原子力村による今回の人災のように利己的人間に政治判断を委ねている。
 核兵器は倫理的検討も不十分なまま開発・使用され、多数の原発が短期的利得を目的に建設されている。広島・長崎の原爆投下や福島原発事故は西欧文明の発展過程における自然科学と形而上分野の乖離から生じた文明災である。

 乖離が生れた最大の理由は経験を他人や後世に伝え継いだか否かである。自然科学の分野では発明発見が即座に世界中に伝わり、未来に引き継がれる。後戻りはない。他分野では三陸海岸で何度も津波被害に遭ってきたように、先人の貴重な経験と警告が生かされず同じ失敗を繰返す。
 たしかに自然科学以外の分野では経験を世代や地域を超えて伝えることは難しい。現時点で可能な最善の方法は日本国憲法に謳い、世界にその趣旨を広めることである。さもなければ原子力のような文明災も日常の利便性にかまけて再び同じ過ちを繰り返すだろう。
 我々は「脱原子力条項」を現憲法に追加し、貴重な経験を後世に伝えよう。

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