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「800字文学館」

4週間の通院介護でへろへと

大越 浩平

 母親が春先、庭で転び手に怪我をした。その時家人はいなかった。出血がひどくおろおろしている所を、幸いにも隣家のご夫妻が気づいて救急車を呼んで下さった。隣のご主人が同乗する寸前に妻が帰宅し、救急病院へ向かった。心配していた骨折もなく、自宅に近い医院を紹介され、翌日から包帯替えの通院が始まる。
 既に週2日はヘルパーさんにリハビリ等の通院介護をお願いしているので、残りの4日を夫婦で受け持つ事になった。医院の診療開始は9時だが、7時から診察券を受け付けているので、朝の犬の散歩路を診察券投函ルートに変える。犬のお勤めを果たし、朝ドラの始まる寸前に帰宅。朝ドラを見て通院準備、母親は出かける直前にトイレに行くとか、寒いのでソックスを履き替えるとか言い出し、動作は緩慢で出発に手間と時間がかかる。右手に杖左手を私のズボンのポケットに手を突っ込ませ体を安定させる。何を言っているのか分からないがブツブツつぶやきながら歩き出す。
 通院の最大の難所は環状7号道路の横断だ。青信号で渡り始めるが、3分の2辺りで信号が点滅し始めやっとの思いで渡る。狭い歩道で2人横に並んで歩くので道に余裕が無い。母親は躓かないように下を向いて歩道を凝視し凹凸に注意している。私は前方に目を配り、自転車が来ると左端に寄りやり過ごす。通常6、7分の所を約30分かかり医院に辿り着く。
 1番の診察だと会計まで終えて約20分、そして10時前に帰宅。朝食、新聞に眼を通しメールをチェックするともう昼だ。

 4週間経ち、週に2度の包帯替えになり通院介護から解放された。4週間で私も妻も、体力気力共にへろへろへとへとになる。
 世の中には百歳現役で賞賛されている超老人もおられるが、世話をする家族のご苦労を推察する。

 大正元年生まれ、まだら呆けの始まった、プライド高き母親の本格介護を思うと、とても「悠遊」たる老後を過ごせるとは思えない。

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