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「800字文学館」

宇宙旅行に膨らみ過ぎる夢

稲宮 健一

 宇宙旅行の夢が理論的に可能であることをロシアのツオルコフスキーが示したのは一八八三年である。戦前、ドイツを中心にオバースや、フォンブラウンなどがそれに続いて活躍したが、第二次世界大戦では武器に転用された。
 戦後、冷戦の末期に西側の結束を誇示するため持ち上がった国際宇宙ステーション(ISS)構想が、今や、ロシアも一員になり有人宇宙開発の最前線基地になっている。一七日に星出宇宙飛行士がISSに到着、長期滞在の予定と発表されている。
 最近、米国では民間の宇宙開発が盛んになり、安価で宇宙に行けるロケットや宇宙船の開発が進んでいる。一般には庶民でも宇宙観光の夢が膨らむ。

 しかし、ここで少し考えて欲しい。大気圏を出ると、そこはもう真空の世界である。ISSのような頑丈な構築物があって、始めて空気で満たされた生活空間が確保されるので、一歩そこから外に出るには、宇宙服と命綱がなければ人間は生きていけない。また、宇宙空間には強い宇宙線が飛び交い、また、高速な宇宙のゴミが低い確率であるが、衝突して来るのを避けられない。世間で言われる人間が移住できる宇宙コロニーなど成り立たない。

 ISSの長期滞在は有人火星探査に結び付くとも聞く。大航海時代から未知の冒険に挑戦して、新しい世界を作ってきた歴史があるが、有人宇宙開発や、宇宙観光には新大陸から得られたような成果は期待できないだろう。
 確かに、火星に直接人間が到着したら、宇宙の成り立ちに新しい知見が発見されるかもしれないが、その夢は無人探査機で十分達成できる。無人で如何に多くの探査ができるかの考察に開発費を注ぎ込めば、多くの人が知恵を絞る機会が与えられ、革新的な研究が進むだろう。数人の有人のため投資するより、無人の開発の方が費用対効果に優れている。

 また、膨大なエネルギーを浪費して、商業ベースで青い地球を見せるための宇宙観光は、あまりにも地球への負担が大きすぎる。

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