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「800字文学館」

心の郷『京都・奈良』

中川路 明

 先日山科の京大ラグビー創部九十年会に出席、多くの懐かしい人に逢った。そのひとり近所の白山さんは、一九三三年私の付属幼稚園入園時の小学四年で、更に旧制高校尋常科ラグビー部に進んだ時は最上級生、全国高校大会で優勝した。
 毎日練習後「足腰を鍛えたい」と自転車の後ろに乗せ家まで送って下さった。道々、毎日早く部室に来て練習球十個に空気を入れ、ワックスで磨くと手が馴染むなど貴重な話を聞き、私が好ハンドリングとラグビー人生を豊かに送れた恩人である。
 想い出多い京都はいつも人出多く、冬景色以外は敬遠、まほろばの里山奈良に魅せられている。脚治養中の咋秋・小学校の後輩に薬師寺東京別院の写経に誘われた。般若心経を薄い紙を通して写すには滲まないように背筋を伸ばし、しっかり墨を磨るのが大切である。疲れたけどお経の字は次々思い出し、若い人より早く書けた。
 別室に移り子供の時から久し振りですと収めた。「以前収められたなら本山山門の蔵を探し一緒にします」。丁寧な答えに慌てた。今回の五重塔再建が私の生年以来と聞き話が弾み、前回の非公開で心柱の見学をしたので、スカイツリーの強度設計基礎が日本刀の反りと脹らみにあることがよく理解できたと礼を言う。
 十年前、唐招提寺の改築を知り、鑑真和尚とお別れした後、畝傍の里山を訪ねた。石舞台から満開のレンゲ畑の畦道に降りると脚の光る雉が二羽遊んでいた。更に綺麗な孔雀の小鳥に出会い、次いで高松古墳、亀岩と存分に緑を彷徨った。
 この二月、薬師寺から結縁者番号も判ったと三月会の法要,舞、奈良ホテルの招待状が届き慌て謝って欠席した。続いて今年十月東京別院の観月会の法要、野点席,森田流の笛奉納の案内が届いた。無作法承知でお参りし、心を清めたい。
 二つの心の郷に就いて筆を走らせた。最近はペンクラブの仲間に労わられ、近所の若者から生きる喜びを受け、川柳の導師に冷かされているが、よろしくお願いしたい。

二四・九・一三

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