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「800字文学館」

職務質問

志村 良知

 ある飲み会で若いビデオ映像作家が「いやあ、この間、真夜中に環八のマックの駐車場でしつこい職質にあいましてね」とぼやいた。仕事の後、撮影機材を会社に戻し、空のワゴン車を停めて食事中の事だったという。座席周りとダッシュボード周りを熱心に捜索、カードを見せて、と財布の中身まで調べられたとか。
「薬物所持を疑っていたんですかね」
「やっぱり堅気とは見なさなかったんだ、お巡りさんも目が高い」とその場は盛り上がった。

 実は私は4回経験がある。
 1回目、学生時代、夜中に友人の下宿から自分の下宿に帰る途中。
 歩きながら聴いていたラジオを、それはお前のか一寸来い、と交番へ。みっちり小一時間取り調べられた。

 2回目、国境を越えてドイツからフランスに入ってすぐ、国家憲兵隊の青いパトカーに停められた。 「直ちにエンジンを止めて車から離れろ」そして車の大捜索。棒付き鏡を使って底まで調べ、段ボール箱を開けろ、ドイツで積んだ荷物はどれか、5〇〇マルク以上の物品は含まれないかという尋問。   国境破りの罪なら身柄拘束されたであろうから、そういう事ではなく、密輸を疑ったらしい。勿論、当方怪しい身ではないので、無事解放された。

 3回目、9・11の二週間後のパリCDG空港。
 帰任の引っ越しで、手荷物にしていた複数台のカメラ・時計、それに家人の装飾品類がX線検査で引懸った。別室でFA・MAS自動小銃を持った兵隊の見張りの下、厳しく尋問されたが正直に答えて事無きをえた。最初は金属製武器所持、後では密輸を疑われたらしい。

 4回目、数年前の六月、大倉山公園近くの路地。
 ミニパトが追い越して停まり、婦警が下りて素早く背後に回り、男の警官が正面から来て「一寸そのザックの中を見せて下さい」。しかし、ファスナーを開けて中を見て「失礼しました」で終った。後で考えると「大倉山梅園の梅を盗んだ黄色いザックの六〇がらみの男」というような通報があったのかもしれない。

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