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「800字文学館」

花の名山 秋田駒ケ岳

大月 和彦

 奥羽山脈の中央部にある秋田駒ケ岳に8月下旬、友人と二人で登った。お椀を伏せたような数個の火口丘群を指す山で、岩場、平原、沼などが広がっている。なだらかな山容は高山植物の宝庫といわれる。ガイドブックには総行程3時間半の散策コースとあった。早朝上野発の新幹線で田沢湖駅へ。バス一時間で11時過ぎには標高1300mの八合目小屋についてしまう。
 湧水のある小屋からなだらかな登りになる。道端に咲き乱れる花の中に、鮮やかな青紫のトリカブトの花が目立つ。花弁が能楽の楽人が付ける鳥兜の形をしているのでこの名がついたという。強い毒を持つので色眼鏡で見られているが目を楽しませてくれる。

 1時間半で火口丘に囲まれた阿弥陀ケ池に着く。小さな水たまりで、周りに木道が敷かれている。少し下ったところにお花畑が広がっている。名の知らないおおくの花が、短い夏に精いっぱい可憐な花を咲かせていた。
 花畑の一画に白い羽毛を付けたおもちゃの風車のような草が風になびいている。花が散った後、花実の柱が車軸状に伸びたチングルマだ。稚児車に似ているのでこの名があるという。地味な白い花より花実の方が珍重されている。
 ハヤチネウスユキソウの一種ミネウスユキソウが群れをなして咲いている。白く綿がついたような小ぶりな花で、今が盛りらしい。
 花ではないが、白っぽい青緑の葉のハイマツがみずみずしく鮮やか。松の香りがしてきそうだった。

 池から男女目岳へは高低差200mの登り。赤茶けた火山礫の中に石を敷き詰めた階段と頂上近くでは木製の階段が続く。ここでもロープの外には花が咲き乱れている。
 頂上は火山礫がごろごろしている平地。山頂を示す標識の隣に一等三角点の石柱が頭を見せている。「大切にしましよう三角点 ― 国土地理院」とあるのはいたずらがあるからなのか。
 360度の眺めは山また山。乳頭山、八幡平、八甲田、出羽三山と鳥海山など北東北の主な山が波打つ中、すぐ目の下に山に囲まれた田沢湖が光っていた。

(12・9・27)

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